理路騒然

 大学生の頃、先輩に言われたことがある。「君ね、貧困が発想なんだよ」。神妙に聞いていたが噴き出した。「逆ですよ、貧困と、発想」▲似た例がある。「逆転の発想」を「逆走の発展」。どことなく、この言い間違いを思い浮かべる。政府は、観光を後押しする「Go To トラベル」の割引対象から、東京都発着の旅行を除外すると明らかにした▲旅行業に起死回生の発展をもたらすつもりが、そのうちの「東京から、東京へ」という特大需要を慌てて外した。やることが逆走ぎみで、迷走している▲開始を今月22日に早め、姿勢は前のめりだが、都内ではウイルス感染が再拡大している。感染者がぐんと増えたら「トラベル」をどうするか、まともな議論はなかったという。場当たり的にやってます、と白状するに等しかろう▲「東京除外」の表明の前、本県の中村法道知事は会見で「計画通りのスタート」に期待したが、県外の知事や市長からは「延期か、地域限定で」と、全国一斉、横並びの開始に疑問や反対の声が上がっていた。地域が示す心配や警戒心に、政府は折れざるを得なかったらしい▲感染状況に目を凝らしつつ、経済のドアをじわじわ開く。それが道理だろう。「理路整然」が「理路騒然」。政府が勇み足の策で騒ぎを招くようでは心もとない。(徹)

 


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