頻発する極端な気象と、どう付き合う? 令和2年7月豪雨の原因から読み解く

豪雨の影響で球磨川が氾濫し、水に漬かった熊本県人吉市の市街地=7月4日午前11時48分(共同通信社ヘリから)

 日本列島に停滞している梅雨前線は、7月3日から2週間近く猛威を振るっています。この影響でたびたび線状降水帯が発生、熊本県をはじめとする九州各地や、岐阜県、長野県などで記録的な豪雨被害が出ています。例年、梅雨後半は特に西日本で大雨になりやすいものです。が、今回の豪雨では、7月前半の降水量が1000ミリを超す被災地も多くあり、数字の面でも「今まで経験したことのないような雨」となりました。

 2018年の西日本豪雨や19年の台風19号など、毎年のように列島を襲う気象災害。頻発する極端な気象現象と、私たちはどう付き合っていけば良いのでしょうか。(気象予報士=安野加寿子)

 ▽梅雨前線が動くわけ

 まずは現在もまだ続いている豪雨の原因を考えてみましょう。

 そもそも梅雨前線とは、北側の冷涼な気団(春の空気)と南側の暖湿な気団(夏の空気)のせめぎ合いでできる空気の境目で、何もなければ停滞します。

 しかし何もないということはそうそう何日も続かず、低気圧が近づいたり、南側の気団の勢力が一時的に強まったり弱まったりすると、南に下がったり、北に上がったりを繰り返します。そうこうしているうちに、南側の暖湿な気団が北へ張り出すようになり、日本は梅雨明けを迎えます。

 ▽停滞した理由はインド洋の水温

 今回の梅雨前線はなぜ2週間近くも日本列島で猛威を振るったのでしょうか?

 理由はいくつか考えられていますが、そのうちのひとつとして、南側の暖湿な気団「太平洋高気圧」が、平年と比べて南西への張り出しが強いことが考えられます。

 これは、日本からは少し遠いですが、インド洋の水温が関係しています。今年はインド洋の水温が高く、上昇気流が起こりやすくなっているため、ここで上昇した空気がフィリピンの東海上で下降しやすくなります。この影響で、太平洋高気圧が例年より南西に張り出し、北への張り出しが弱くなるため、梅雨前線が北上しにくく、日本列島に停滞しつづけているとみられます。

 さらに、上空の偏西風が、日本の西側で南へ蛇行し、太平洋高気圧の縁に沿って、南からの暖かく湿った空気(水蒸気をたくさん含んだ空気)が日本列島に流れ込みやすくなっているため、梅雨前線の付近で線状降水帯が発生する要因にもなっているのです。

 ▽何度も発生した線状降水帯

 線状降水帯とは、積乱雲が線状に連なり、ほぼ同じ場所に数時間停滞する雨域のことを言います。ひとつひとつの積乱雲は10キロ四方程度の大きさで、30分から1時間ほどで消えてしまいます。しかし、積乱雲の素となる暖かく湿った空気(水蒸気)が補充され続ける状況になると、積乱雲が連なり、次から次へと発生と消滅を繰り返して、ほぼ同じ場所に細長く活発な雨域がかかり続けるのです。

 今回の豪雨では、この線状降水帯が何度も発生しました。

 そのうちのひとつ、球磨川の流域を含む熊本県南部では、7月3日から4日にかけての24時間で400~500ミリの豪雨となりました。また、大分県の玖珠川流域や岐阜県の飛騨川流域では、7日から8日にかけての24時間で300~500ミリの大量の雨が降りました。

梅雨前線による豪雨で増水した飛騨川=8日午後、岐阜県下呂市

 ▽まずは、ハザードマップの確認!

 気象の予測技術は日々進化をしていますが、線状降水帯の予測は残念ながら未だ正確にできていないのが現状です。梅雨明け後も、局地的豪雨や台風被害など、夏は気象現象が目まぐるしく襲い掛かってきます。テレビやラジオ、インターネットやSNSなどで、最新の気象情報を確認する習慣がとても大切になってきます。

 またそれ以上に、「いざというときの判断力」が一人ひとりに求められています。 日本は狭いながらもそれぞれの土地に特徴があるので、例えば24時間で500ミリの雨が降ったとしても、地域によって被害状況は変わります。

 土砂災害に弱い、河川が近くにある、周囲より低い土地など、自分の住んでいる地域のウィークポイントを日ごろから知っておくと、早めに備えをしておこう、この段階で避難しよう、など判断がつきやすくなりますよ。 まずはハザードマップの確認から!

ハザードマップポータルサイト

https://disaportal.gsi.go.jp/

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