ダチョウの肉ってどんな味なの? 低脂肪、環境にも優しい 各地で普及に取り組み

茨城県筑西市の「クイーンズオーストリッチつくば」で飼育されているダチョウ

 フライパンで焼き目を付けたフィレ肉をほおばると、ぷりぷりした食感と肉の甘みが口の中に広がった―。日本ではなじみの薄いダチョウの肉を初めて食べ終えた感想は、「ジューシーでうまみがたっぷり。おかわりしたい」。このおいしさを知ってもらおうと、生産者や産地の自治体が普及に取り組んでいる。牛や豚に比べて少量の餌で育つことから「環境に優しい家畜」とされ、約1年で体長2メートル前後に成長するため生産効率が高い利点も。高タンパク・低脂肪な赤身肉で、「ヘルシーなのに食べ応えがある」と気に入る消費者も増え始めた。(共同通信=永井なずな)

 ▽魅力

 茨城県西部の田園地帯。人の背丈ほどの柵で仕切られた放牧場で、長い首に大きな瞳がかわいらしい体長1・6メートル前後の鳥たちが、足の爪で地面を掘ったり羽をばたつかせたりして気ままに過ごしていた。「あと2、3カ月すれば食べごろ。レアかミディアムレアで調理するのがおすすめ」。食べ方を伝授する牧場経営者の加藤貴之(かとう・たかゆき)さん(33)の頭を、1羽がくちばしでつついた。

ダチョウの世話をする加藤貴之さん

 ダチョウ肉との出会いは9年前。東日本大震災で映像制作会社の仕事が激減し将来を見つめ直していた時、知人が調理したカルパッチョを偶然試食した。「臭みは感じず、馬肉に似た印象。おいしさに感激した」。決心して脱サラし、知人の畜産家の下で生態や繁殖法を一から習得した。ダチョウの飼育に関する国内の文献は少なく、洋書を読みあさり、海外にも視察へ。のめり込むにつれ、いつしか友人から「ダチョウに顔が似てきた」と指摘されるようになった。

 昨年秋、同県筑西市に牧場「クイーンズオーストリッチつくば」を開設し、現在15羽を手塩にかけて育てる。「においがほとんどなく鳴き声もしないので、近隣住民への影響がほとんどない。注文は徐々に増えており、リピーターのお客さんもいる」

 加藤さんが育てたダチョウの生ハムやドラム肉など、数種類の部位を記者も購入してみた。レバーは、流水で血を洗い流した後、強火でソテーし塩こしょうで味を調整。懸念していた生臭さは一切なく、口の中でとろけた。数分ゆでたソーセージは、あふれる肉汁がたまらなかった。

ダチョウのドラム肉のソテー

 ▽南アフリカ発祥

 生産者らでつくる日本オーストリッチ協議会(千葉県)によると、ダチョウはアフリカ原産で世界最大の鳥。時速60キロで走れる俊足の持ち主だが、飛ぶことはできない。成長が早く、1年で体重100キロ前後になる。草食で、木の実やわらを食べて育つ。

 必要なえさの量はカロリー換算で牛の5分の1。肉の価格は1キロ当たり4千~5千円ほどで、和牛と同程度だ。国内では1990年代半ばに家畜として導入が始まった。現在は年間約2千羽が食肉処理されているが、協議会の田中俊之(たなか・としゆき)事務局長は「近年身近になってきたジビエ(野生鳥獣肉)と比べても、生産量はまだ少ない」と話す。

野生のダチョウ=2018年9月、ケニア・マサイマラ国立保護区

 普及に向けた課題もある。繁殖力が強く、雌は年間に40個前後の卵を産むが、ふ化しなかったり、ひなの段階で死んでしまったりする場合も多い。好奇心旺盛で脳は約40グラムと小さく、異物の誤飲や水たまりでの溺死、柵などで自傷してしまうといった事故が起きやすく、生産者の技術や設備の向上が求められている。

 南アフリカが発祥の畜産業で、80年代後半からヨーロッパやアメリカに広がったが、世界的に見れば家畜としての歴史は新しい。「動物園で見たことはあっても、どんな生き物なのか国内ではあまり知られていない。まして食べてみようという人は珍しい。人間との関わりの歴史や生態をまず知ってほしい」と田中さん。ダチョウを一時的なブームで終わらせず畜産業として根付かせたいとの願いから、協議会の施設内に8月、「ダチョウの科学館」を開館し、剝製や資料を展示する計画だ。

 ▽返礼品にも

 山形県朝日町は、約2年前から地元産のダチョウのハムやソーセージをふるさと納税の返礼品で扱っている。特産品として定着しているリンゴやワインが人気だが、「ダチョウの返礼品は、ほかの自治体で聞いたことがない。珍しさから、問い合わせや注文は少しずつ増えている」という。

山形県朝日町が返礼品として扱うダチョウ肉の加工品(同町提供)

 新しい産業を創出しようと、地元の食肉加工会社が98年に南アフリカからダチョウ9羽を輸入したのが始まりで、現在は道の駅や土産物店でダチョウの加工肉や卵を使ったアイスクリームが簡単に購入できる。

 町担当者は「親族が集まる法事で振る舞われたり、学校給食に出たりと、町民にとって身近な食材になりつつある」と語る。ダチョウの飼育施設やダチョウ肉を提供する町内の料理店は、近年人気の観光スポットになっており、町を挙げたイベントも今後企画する。

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