ポルシェ初のピュアEV「タイカン」、“ポルシェらしさ”はどこまである?

ポルシェブランドで初めてとなるピュアEV(完全なる電気自動車)、タイカン。昨年9月にメインの市場となるヨーロッパ、北米、中国で同時に発表され、大きな話題となったEVスポーツが、いよいよ日本でも価格が発表されました。動き出したポルシェの新たな世界観とはどんなものでしょう。


3グレードで始まるEVライフ

昨年9月のワールドプレミアムから2ヶ月後、新しい4ドア、4シーターのスポーツサルーンであるタイカンは日本国内でも報道陣などに公開されました。同時に価格は未発表でしたが予約注文の受付もここからスタートしました。

この時点で日本に導入されるタイカンは「4S」、「ターボ」、「ターボS」の3グレードだということ、それぞれのスペックなどはわかっていましたが、価格は不明。それでもポルシェのサルーンであり、おまけにEVということを考えれば、1千万円中盤から2千万円超えというのが大方の予想価格帯でした。

予約状況の内容を見るとタイカンが初めてのポルシェ、という新規ユーザーは45%、そしてガソリンエンジン車からの乗り換えユーザーが95%だったということで、その関心度の高さが数字の上でも明らかになったようです。

911オーナーにとってはあまり違和感のないリアスタイル

そして今回、明らかになった正式価格はタイカン4Sが1,448万1,000円、タイカン・ターボが2,023万1,000円、そして最強モデルのタイカン・ターボSが2454万1000円ということでした。同じくポルシェのスポーツサルーンとして人気のパナメーラは1,200万円台から3,100万円台までと幅広い展開を見せますが、タイカンはまだ導入初期ですから単純な比較は出来ないかもしれません。

なにより、パナメーラはガソリンエンジンからターボ、ハイブリッドやGTSモデルなどバリーションは実に豊富。対してタイカンはワールドプレミアムを済ませたばかりのニューモデルで現在は3グレードだけとなります。バリエーション展開はいつものポルシェらしく色々と用意してくれそうですから、今後の楽しみということになるでしょう。

さてここで一つ気になると思いますが、ピュアEVのタイカンに「どうしてターボか?」という疑問です。確かにエンジンの過給装置であるターボがモーターに着いているわけがありません。実はポルシェの歴史において「ターボ」とは“最強モデル”に与えられる称号でもある、というお約束ごとがあるようです。

最近ではターボのさらに強力なモデルには「S」が与えられたりしますが、とにかくイメージ的にはポルシェがターボと名乗れば、それはモデルの最強仕様であるという認識になります。ポルシェ911を筆頭にする歴代のターボモデルで作り上げたイメージをタイカンでも継承したわけです。ちなみに「タイカン」はトルコ語で「生気に溢れ、活発な若い馬」という意味だそうです。

スーパーカー並の加速性能

ではそれぞれどんなパフォーマンスなのでしょうか。ベーシックなモデルとして用意された「4S」の最高出力は530馬力、最大トルクは640N・mで、その加速性能0~100 km/h加速は4.0 秒です。次に中間グレードの「ターボ」ですが最高出力は680馬力、最大トルクは850N・m、加速性能0~100 km/h、加速は3.2 秒です。そして強力のターボSは最大出力761馬力、最大トルク1050N・m、加速性能0~100 km/h加速は2.8 秒ということになります。なお、この各モデルのパフォーマンスですがローンチコントロール(自動制御装置)を働かせた場合のものです。

透視イラスト。前後にモーターの間の床下にバッテリーが搭載される

そのオーバーブースト出力によって実現するその加速性能はスーパーカー並の強烈さです。比較としてアメリカのテスラ・モデルS(パフォーマンス)ですが0~100㎞/hが2.5秒という速さですから、確かにそれには及びませんが、それでももの凄い加速性能です。

またEVにとっては大きな関心事である“満充電による航続距離”は4Sが333~407km、ターボが450km、ターボSが412kmです。あくまでもメーカーが公表した最大値ですから実際にはここまでの航続距離は難しいとは思います。現実的には300km台中盤の航続距離だと思います。

タイカンの各モデルには前後アクスルに1基ずつ、合計2基の永久磁石シンクロナスモーターが搭載されています。そしてリアアクスルには新開発された自動切換式の2速トランスミッションが装備されているという少々、凝ったつくりになっています。当然、効率性やスポーツ性を重視し、走行モードにあわせて4輪を最適に駆動するようにコントロールされる、4WDです。

空冷モデルのオーナーにとってはちょっぴり懐かしさを感じさせるダッシュボード

さらに高性能バッテリーをアンダーボディに内蔵することによって、重心はより低くなり優れたドライビングの感触が得られます。実はポルシェのガソリンエンジンは、ご存じの通り、重心が低い水平対向エンジンです。実際に走ればこれまでのポルシェが作り上げてきたドライビングの感触に近いものがEVでも表現できていると期待できるわけです。

ポルシェというのはどの時代も“ポルシェらしさ”を失わず、それがブランドとしての誇りでもあったわけです。まだ実際には試乗テストを日本で行っていませんが、多分、ポルシェの走りの伝統はEVであっても不変だと期待できるでしょう。

充電インフラ整備が普及のカギ

タイカンターボのボディサイズですが大きさはパナメーラ(ベースモデル)と比べると全長は87mm短く、31mm幅広く、47mm低くなっています。そしてホイールベースは50mm短くて2900mmです。全長が5mオーバのパナメーラと比べれば、一回り小型ということになりますから、少し居住性は落ちるかも知れませんが、4人乗りということであれば、十分な広さを確保しているはずです。EVということだけでなく、このサイズ感においてもパナメーラとは棲み分けはできています。

伝統的にホールド性のいいシート。長距離でも疲労感は少ない

そこで1,229万9千円のテスラ・モデルS(パフォーマンス)とパフォーマンスを少し比較してみましょう。走りの加速性能や593kmという航続距離だけをみると、もっともリーズナブルなタイカンの4Sの価格で最上級のモデルSが買えるのです。つまりタイカンの最も安い4Sよりお安く、タイカンのターボS並のパフォーマンスが手に入るとなれば、テスラにちょっと買い得感を感じます。ただし、これはスペック上の比較であり、実際に走りや居住性についてタイカンを試乗したわけではありません。それにポルシェならではの味つけがどう生かされているかも未体験ですので、この先に予定されるだろう試乗まで評価をお待ちください。

さてタイカンですが、一般的な電気自動車が用いる400Vに代わり、800Vの電圧システムを採用し、非常の効率的に充電や駆動性能は向上することができています。そして気になるのは充電インフラです。テスラはユーザーに日本国内の充電基準である急速CHAdeMO(チャデモ)と200V普通充電に対応しできるようにコネクターを用意します。専用のテスラステーションのないところではそのコネクターを使用して充電できます。

専用の150kW級出力の「ポルシェターボチャージングステーション」なら、5分の充電で100kmの走行が可能になる

タイカンも日本国内の充電基準、チャデモに対応していますから高速道路のSA/PAや道の駅、駐車場等の公共施設にすでに設置されている2万基を超える充電器で、リーフやプリウスPHVなどと同じように利用可能です。さらに全国のポルシェセンターにも充電器の設置を順次進めていく予定です。

価格発表と同じタイミングで行われたポルシェ初のポップアップストア「ポルシェNOW東京(東京・有明)」の発表では、こうした新たなブランド発信基地やディーラーに都市型充電ステーションとして機能する「ポルシェターボチャージングステーション」を展開していく予定です。

今年の7月9日現在で東京には4カ所(準備中)、名古屋に2カ所(ヒルトン名古屋地下駐車場内、ナゴヤセントラルガーデン第1駐車場内)、大阪に2カ所(リンクスウメダ地下駐車場内、あべのハルカス地下駐車場内)設置、準備となっています。150kW級出力の「ポルシェターボチャージングステーション」であればチャデモより短時間で効率よく充電することができます。EVにとって最大の問題である充電インフラ、クルマの普及にはこれをまず解決することが優先課題ですね。

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