“新生日産”のカギを握る、新型EV「アリア」の発売が2021年中頃となる理由

2019年の東京モーターショーでコンセプトモデルとして公開された新型のクロスオーバーSUVスタイルを持つピュアEV(電気自動車)、日産アリア(ARIA)が世界初公開されました。昨今、同社は色々な問題が重なり厳しい環境下にさらされていますが、後述する企業ロゴの変更と共に復活するかを占う重要なモデルであることは間違いありません。


世界のEV市場を牽引してきたが・・・

日産のEVと言えばやはり思い浮かぶのはリーフです。初代は2009年8月に発表、翌年12月に発売を開始しました(発売まで時間が空いています)。2代目は2017年9月に発表され、2019年3月にはグローバルでの累計販売台数40万台を達成するなど、文字通り世界のEV市場を牽引してきました。

しかし時代は常に変化しています。リーフが世界の自動車産業に与えた影響は確かに大きいのですが、今や世界の自動車産業の重要拠点でもある中国ではベンチャーを含め多くのEVが誕生しています。そして何よりアメリカのテスラモーターズが販売するモデル3などの販売が堅調、時価総額が22兆円に達し、トヨタを抜き世界1位になったニュースが経済メディアを中心に報道されました。

つまりEVの開拓者である日産いえども安穏とはしていられないわけです。そこに切り札としてグローバルに投入するのがアリアというわけです。

ボディカラーは「暁(あかつき)」と呼ばれるカッパー(銅色)とブラックの2トーン

売れ筋のCセグメント

発表されたアリアのボディサイズは全長4,595mm×全幅1,850mm×全高1,655mmとCセグメントのクロスオーバーSUVとなります。特に全長は同社のSUVであるエクストレイルより95mmも短いので取り回しのし易さなどでも期待が持てます。

想定される競合クラスとしてはメルセデス・ベンツ GLCやBMW X3などが近いです。特にX3に関してはアリアの発表直前に同じピュアEVとなる「iX3」をグローバルで発表したばかりなのでリアルなライバルと言えるのかもしれません。

ライバル車に比べややコンパクトな寸法ですが、モーターのみのフルEV(つまりエンジンが無い)なので前後のオーバーハングを縮めながらホイールベースを拡大できます。つまりCセグメントでありながらひとクラス上のDセグメント並みの室内空間を実現できたことがデータからも読み取れます。

ラゲージ(荷室)に関しても2WD車で466L、4WD車で408Lと実用レベルの容量を持っています。

日本伝統の組子のパターンをフロントグリルに採用しました

目に飛び込んでくる“未来”

デザインコンセプトは「タイムレス ジャパニーズ フューチャリズム」。これだけではややわかりづらいのですが、非常にシンプルなラインとモダンさを両立しているとのこと。特に前述したようにエンジンがありませんので冷却のためのラジエターも不要。つまりフロントグリルにはすき間がなく、スモーク調のパネルで覆われています。実はこの内側には先進安全技術のセンサー類が搭載されているのですが、デザイン性と同時にセンサー類の保護を行うという役目も両立させています。

イグニッションオンで空調の操作スイッチが浮かび上がります

インテリアのキーワードは日本語の「間(ま)」でこれまでに見たことの無い世界観が堪能できそうです。

特に驚くべきは基本的に物理スイッチが無く、イグニッションをオンするとインパネ上にアイコン(スイッチ)が浮かび上がります。パネル自体も日本の伝統工芸をモチーフにしたもので前述したコンセプトに沿ったものと言えます。

左側のディスプレイはナビの他、AV機能など多彩な表示を組み合わせる事が可能です

またインパネには2つの12.3インチのディスプレイを配置、中央部のディスプレイはナビだけでなくスワイプ操作などで音楽やハンズフリー通話など多彩な表示を可能にします。実はこの仕組みも後述するた昨年のイベントで公開されており、その点でもアリアはまさに新時代の日産車を体現するモデルとして開発されていたことがわかります。

注目の2モーター4WDが凄い

公表されたデータによればアリアには2WD車と4WD車が設定されます。さらにバッテリー容量も65kWhと90kWhの2種類。単純に4つの異なる性能を持つことになります。

日本仕様の基本スペックとしては以下のようになります。

4種類のパワートレーンを見ると、最も航続距離の長い90kWhの2WD車が最大610km、一方で最高速度200km/hを誇る90kWhの4WD車は0-100km/hの加速は何と5.1秒の俊足ぶり。同社のフェアレディZに匹敵する加速というのも納得できます。つまり4種類それぞれが特徴を持つことでユーザーニーズに対応できるわけです。

その中で注目は何と言ってもアリアから採用されたEV専用プラットフォームに搭載される「e-4ORCE(イーフォース)」と呼ばれる4WD機構です。

GT-Rやエクストレイルなどから得た制御技術をさらに高めるため、前後に2つのモーターを搭載しています。これ自体を個別にコントロールすることで直進時の加速性能のほか、優れたハンドリングが期待できます。

テストカーからアリアを仮想インプレ

2019年の日産のイベントでデモ走行を行った2モーター式のリーフのテスト車両

実は昨年の10月に日産の最新技術を体験できる「ニッサン インテリジェント モビリティ テクノロジーツアー2019」というイベントが開催されたのですが、そこに将来市販の可能性がある2モーターを搭載したテスト車両が用意されていました。ある程度予想は付いていましたが、これが「e-4ORCE」の前身となる技術です。

テスト車両はリーフでしたが、システムの出力は227kWまで高められており、車両重量差はあってもアリアに近いスペック。圧倒的な加速はもちろん、コーナリング時もグイグイと車両がイン側に入る、魔法のようなフィーリング。さらにこれぞ電動化技術として感動したのが急激にアクセルをオフにした際にも車両が前のめりになる姿勢を抑えてくれる「フラット制御」と呼ばれるものが組み込まれていました。

実際の車両は異なりますが、テスト車両でもその実力の片鱗を感じることができましたので車両重量のあるアリアでも十分期待ができそうです。

コネクテッドやADASも最新版を搭載

プロパイロット2.0はスカイラインより精度なども大幅に向上しています

通信機能を搭載するアリアは従来以上のコネクテッド技術を搭載します。スマホとの連携で家にいる時から目的地設定を行えたり、その際に充電スポットが自動的に経由地に設定されるなど新しい機能も搭載されています。

さらにAmazonの音声UIである「Alexa」を搭載し、独自の「スキル」を活用することで車内から家の家電の操作を行うこともできます。

またADAS(先進運転支援システム)に関してもスカイラインで高い評価を受けた「プロパイロット2.0」をさらにレベルアップ。準天頂衛星システム(みちびき)受信に対応することで自慢のハンズオフ走行の精度向上やより滑らかなフィーリングを可能にしました。

リーフに搭載され高い評価を得ている「プロパイロットパーキング」も設定します

発売はなぜ来年?今後の課題は?

既報の通り、アリアの発売は2021年の中頃とかなり先になります。コロナ禍の影響はもちろんありますし、冒頭で述べたように初代リーフの導入時も約1年かかっています。

ただ日産の復活を占う車種としては市場投入がやはり遅いと感じる部分もあります。これはあくまでも予想なのですが、アリアは従来以上に航続距離を高めるため当然のことながら大容量バッテリーを搭載しています。

日産の発表によれば「130kWh以上の出力が可能なCHAdeMO(急速充電器)を使用した場合、30分で最大375km分を充電できる」と言っています。

しかし現在、この高出力(90kWh以上)の急速充電設備は日本ではほとんど見かけません。日産もこれから最大出力150kWhのCHAdeMO急速充電器を2021年度内に国内の公共性の高い場所に設置するよう、パートナーとの調整を進めていくとのことです。つまり、インフラの整備はアリアにとって重要なテーマであり、ある程度短期間に整備されることが求められます。

そして最後に気になる価格ですが、実質購入価格は約500万円から、とアナウンスされています。もちろん、これは補助金などを活用し、さらにエントリーグレード(2WD車の65kWh)の価格になるでしょう。それでもセグメントは上になりますが、先行するメルセデス・ベンツのEQCの価格が1080万円であることからも全体的なプライスは低めに抑えられる可能性があります。

特にバッテリーは非常にデリケートかつ製造に時間もかかります。実際の予約開始がどのタイミングかはまだ未定ですが、購入を考えている人はすぐアクションを起こさないと納車までさらに時間がかかってしまう可能性もありますので今後の情報には敏感でありたいものです。

新しくなった日産のロゴ、アリアから生まれ変わるという意志の表れを感じます

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