照り乞い

 〈私がいないと人間たちは私を探すが、多すぎると人間たちに嫌われる。私はなぁに?〉と、トルコのなぞなぞにあるという。お天気キャスターの草分け、倉嶋厚さんがエッセーで紹介している。答えは「雨」▲日照りが続けば雨乞いし、多雨ばかりだと顔をしかめる。古今東西それは同じだが、倉嶋さんによると、日本では祈雨(きう)(雨乞い)の記録は古文書に多く残るが、祈晴(きせい)の記録は少ないらしい▲古川柳にも〈雨乞いはあれど照り乞いためしなし〉とある。「照り乞い」とは聞き慣れない言葉だが、この7月はどんなにか多くの人が心で「祈晴」し、「もう降らないで」と乞うたことだろう。今月の豪雨で、全国の総降水量は2年前の西日本豪雨を超えたという▲梅雨前線が列島付近に居座り続けるためらしい。前線がこうも長く停滞するのは「記憶にない」と気象庁の長官が語っていた▲きのうも東海地方で激しく降った。梅雨明けは平年より遅いとみられ、各地の「照り乞い」の声は天になかなか届かない▲熊本県八代市の豪雨被災地で、家財を運び出すボランティア活動をした旧友から、現地の画像が送られてきた。「復旧までの何万分の一だとしても、できることをやる」と文が添えてある。照り乞いだけではない、復旧をこいねがう声もまた、梅雨空に広がる。(徹)

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