審判員も待望の夏 約9カ月ぶりの“実戦”

選手たち同様に久しぶりの“実戦”となった審判員たち。試合開始前、グラウンドへ走りだす=県営ビッグNスタジアム

 例年の応援がないためか「ストライク」や「セーフ」の声がよく響く。審判員にとっても待望の夏が訪れた。ほぼ全員が元球児。「昔の恩返し」「記憶に残る大会に」。一投一打に鋭い目を向ける試合の番人の胸には、コロナ禍で過去に例のない悔しさを味わった“後輩”たちへの優しくて、熱い思いが宿っている。
 「一生に一度あるか、ないかの舞台だから」。こう話すのは県野球審判協会事務局長の森山真一さん。春の選抜大会、初めて甲子園でジャッジするはずだった。中止の無念を押し殺して、自宅でシミュレーションをしたり、練習試合では通常は選手がやる塁審も務めたり「いつあってもいいように」準備を進めてきた。
 勤務先が県営ビッグNスタジアムの鶴巻亨さんは、大会が相次いでなくなった球場について「きれいに保てたけど、やっぱり選手が駆け抜けてなんぼ」。職員は大会ごとにテーマを決めるが、この夏も「いつも通りの舞台をつくりあげる」。抜かりなく整備して“プレーボール”を迎えた。
 昨秋以来、約9カ月ぶりの県の公式戦。同協会の川端勲会長は「選手も審判も一生懸命なのは幸福なこと。甲子園がないけど、やっぱり県大会は面白い」と見守った。
 鶴巻さんは「グラウンドキーパーや審判の我々裏方も、初心に帰って緊張感がある」。そう笑顔を見せた上で、今年ならではの心境も吐露する。「試合後の校歌斉唱は普段は自分への達成感も強い。でも、今回は選手たちの背中を見ながら『大変な中、本当に頑張ったな』と感じている」
 19歳から審判を務めるベテラン、57歳の深田賢介さんは「“実戦”感覚は選手たちと一緒。年齢のせいかもだけど、最初の試合は一歩目の反応が少し鈍かった」と苦笑い。「自分の子よりも小さい選手たち。のびのび、少しでもいい思い出をつくれるように貢献したい」
 最後に複数がこう口をそろえた。「選手たちの中から一人でも後を継ぐ子が出てきてくれれば」-。百年以上の長い歴史を誇る大好きな高校野球の灯(ひ)を絶やさないためにも。

 


© 株式会社長崎新聞社