計算通りに打者を罠にはめるチェンジアップ お股ニキが選ぶメジャー厳選4投手

ブルージェイズ・柳賢振【写真:Getty Images】

お股ニキが絶賛するチェンジアップの使い手は?

【お股ニキが選ぶ3+1・MLB編 第4回 チェンジアップ】

今季MLBはいよいよ23日(日本時間24日)に開幕を迎える。投手と打者が再び繰り広げる、18.44メートルの真剣勝負。互いに負けじと両者はあらゆる策を講じてくるが、打者がどうしても打ち崩せないものがある。それが「魔球」だ。ピッチャーはそれぞれ違った「魔球」を持っているが、誰の何を見ればいいのだろう……。

そこでお届けするのが「お股ニキが選ぶ3+1・MLB編」シリーズだ。野球の新たな視点を提案する謎の解説者・お股ニキ氏が、頭を悩ますファンに貴重なアドバイスを送る連載。各球種における「球界トップ3」と惜しくも選は漏れたが、要チェックの「プラス1」を加えた4投手を独断と偏見でピックアップし、ご紹介する。

第4回は、速球と同じ投球動作から繰り出される緩い変化球「チェンジアップ」だ。オフスピードピッチとも呼ばれるチェンジアップは、速い4シームや2シームと対比して使われ、打者はその緩急差に手こずらされる。フォークや縦のスライダーのように落差もあるため「落ちる球」として有効で、打者は空振りやゴロに仕留められてしまう。アメリカでは子どもが最初に覚える変化球でもあり、日本以上に投手が投げる頻度は高い。ある意味、メジャー投手の基礎をなすとも言える「チェンジアップ」だが、お股ニキ氏が選んだ4投手とは……。
(データソースはBaseball Savant、FanGraphs、BrooksBaseballによる。主なデータ項目の説明は最後に付記)

【1位】柳賢振(ブルージェイズ)左投
回転効率77% 平均球速80.69マイル(約129.9キロ) Spin Axis 9:44 1487回転
空振り率18.8% 投球割合27.47% 被打率.190 ピッチバリュー/100:3.3

2019年開幕から驚異的な投球を見せ、“人外”デグロムの牙城は破れなかったものの、サイ・ヤング賞投票で2位に食い込んだのが、技巧派左腕の柳賢振である。元々肩の故障が癒えた2018年以降は、真っ直ぐな4シーム、今回紹介するチェンジアップ、カーブに加え、飛躍の大きな要因となる中間球のカッターを身につけて防御率2点台を誇っていた。昨年はさらに2シームも覚えて、4シームを中心にシンカーとカッターを左右対称的に曲げ落とし、カーブでタイミングを外す技巧派の頂点のような投球を展開していた。その中で最も投げ込んでいたのがチェンジアップである。

ストライクゾーンに投げても打者はまともに捉えることが難しい、この緩急の効いたサイドスピンのボールは、柳の投球を中心となって支えた。2シームや4シームとも軌道が似ているため、カウント球としても決め球としても十分な威力を誇った。カッターとともに、速度がありながらカウント球にも決め球にもなる球種が左右に1つずつあったイメージで、打者は何が来るのか山を張りにくかったことだろう。こうした圧倒的な投球構成でサイ・ヤング賞レースで2位に食い込んだ。ブルージェイズに移籍した今季は山口俊とチームメートとなり、その投球を日本人が目にすることも多いはずだ。

レンジャーズのマイク・マイナー【写真:AP】

故障からの復帰のカギを握った左腕マイナーのチェンジアップ

【2位】ルイス・カスティーヨ(レッズ)右投
回転効率84.6% 平均球速85.85マイル(約138.2キロ) Spin Axis 2:41 1971回転
空振り率26.6% 投球割合31.62% 被打率.128 ピッチバリュー/100:2.7

レッズのエースに成長したカスティーヨ。彼が誇る武器はスラット型のジャイロ高速スライダーと、この高速チェンジアップである。4シームや2シームにそこまでの伸びはないが、それでもこのスライダーとチェンジアップを投げ分けるスラット・スプリット型投球で大活躍している。

サイドスローの投手にありがちなサイドスピンのかかったチェンジアップは、横スライダーの逆バージョンのように高速で大きくシュートしながら右に落下する。90マイル代後半(約150キロ超)でシュート回転する速球を持つカスティーヨが、この高速チェンジアップを投げてきたら、打者は見分けがつかずに空振りしてしまう。さらに、高速チェンジアップにスライド気味の変化を加え、スラットのように動かすことも可能だった。

また、スラット型スライダーの曲がり出しからの変化速度は素晴らしく、ひょっとするとチェンジアップより、さらに上の質かもしれない。山口俊など腕のアングルが低いタイプの投手に参考になる投球スタイルでもある。

【3位】マイク・マイナー(レンジャーズ)左投
回転効率95% 平均球速84.96マイル(約136.7キロ) Spin Axis 10:08 2286回転
空振り率15.8% 投球割合24.61% 被打率.178 ピッチバリュー/100 2.7

一度肩の故障で表舞台を離れ、復帰は難しいかと思われたが、見事に復活。ここ2年は先発としての投球は素晴らしく、rWARではリーグトップクラスである。ややパワー偏重な思考となりがちだったレンジャーズのフロント陣に考えが滑らかな人物が加入した可能性が高く、ランス・リンとともに復活劇を演じている。

そんなマイナーの復活を支えたのがチェンジアップである。プレートの三塁側を踏むサウスポーが投げ込むチェンジアップは、回転効率が高く、実質「緩急の効いたシュート回転の2シーム」のように独特だ。右打者のインコースに食い込んでボール球と思わせてから、わずかにベース側に戻ってストライクとなるフロントドア2シームのような使い方が光った。カッターなども活用するマイナーは、こうした軌道偽装とも言える、同じコースで逆の変化を持つ球を使い込んで打者を幻惑する。こうした新しいチェンジアップの使い方はアナリストらの意見を参考にしたわけではなく、自分で考えて組み立てたものだという。

また、打者有利のカウントで走者がいる時は、右打者の甘いコースからやや外寄りに落とす典型的な「併殺チェンジ」で誘い、計算通りに併殺を奪う技術も光っていた。チェンジアップは、投球技術に優れるマイナーが投球のメインとして欠かせない球になっている。

アストロズのザック・グリンキー【写真:Getty Images】

お股ニキ脱帽 4シームより速いチェンジアップとは…!?

【プラス1】ザック・グリンキー(アストロズ)右投
回転効率68.6% 平均球速87.05マイル(約140.1キロ) Spin Axis 2:21 1779回転
空振り率14.0% 使用割合21.92% 被打率.194 ピッチバリュー/100 2.7

メジャー投手の中でも曲者的存在のグリンキー。特Aクラスの投球術の持ち主は、あらゆる球種で顔を出す。2018年ならマエケン(前田健太)のスプリットチェンジも取り上げたかったが、昨年はやや質を落としたため、スローカーブに加えてグリンキーのチェンジアップを「プラス1」としたい。

2015年頃から当時マリナーズのエースだったフェリックス・ヘルナンデスの高速チェンジアップを真似し、習得してしまったグリンキー。全盛期だった2015年は、95マイル(約152.9キロ)のまっスラ4シーム、88マイル(約141.6キロ)前後のスラット、そしてこのチェンジアップに、たまにスローカーブを織り交ぜる王道ピッチでシーズンを通じて防御率1点台を記録。サイ・ヤング賞投票では2位に入ったが、その後スピードの低下が顕著となる。

元々アームアングルの高いグリンキーが、やや低めのヘルナンデスが投げる高速チェンジアップを習得してしまったことだけでも驚きだが、年齢を重ねて球速が出なくなると、チェンジアップの方が4シームよりも速くなるような調整すら行っていた。落ちるボールがストレートより速いスピードで落ちるのである。軌道偽装という意味でも満点だろう。

また、マイナーと同様に外角に程よく変化する「併殺スラット」や「併殺チェンジ」で打者を食いつかせ、多くの併殺を奪うことができる。スローカーブに加え、にわかには信じがたいような投球術の持ち主だ。

※回転効率:総回転数のうちボールの変化に影響を与える回転数の割合。

※Spin Axis:回転軸の傾き 時計盤の中心にボールがあると考えて“時間”で表記。例えば「6:00」の場合、ボールは投手からホーム方向へ12時から6時へ下向きの回転(トップスピン)をすることを示す。「12:00」の場合は6時から12時へ上向きの回転(バックスピン)、「3:00」の場合は9時から3時へフリスビーのような右向きの回転(サイドスピン)、「9:00」の場合は3時から9時へ左向きの回転(サイドスピン)となる。

※ピッチバリュー/100:その球種が生み出した得点貢献(期待失点の減少)を、100球投じた場合の平均に直したもの。例えば、ある投手の4シームが2.00ならば、「4シームを100球投げることで平均よりも2点の失点を減らした」ことになる。

【動画】お股ニキ氏も1位に挙げて絶賛! 柳賢振の“魔球“チェンジアップの実際の映像

Hyun-jin Ryu, 92mph Fastball and 82mph dead zone Changeup, Individual Pitches + Overlay. pic.twitter.com/gklWOD7oo5

— Rob Friedman (@PitchingNinja) May 31, 2019

【動画】お股ニキ氏も1位に挙げて絶賛! 柳賢振の“魔球“チェンジアップの実際の映像 signature

(お股ニキ / Omataniki)

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