『アルプススタンドのはしの方』野球を見ている人たちを見る映画

(C)2020「アルプススタンドのはしの方」製作委員会

 タイトル通り、甲子園という華やかな舞台でスポットライトを浴びる選手たちを観客席の端っこで見ている高校生4人の青春が描かれる。兵庫県東播磨高校の演劇部が全国高等学校演劇大会で最優秀賞を受賞した舞台の映画化だ。

 主人公たちは、スクールカーストの底辺にいるわけではないけれど、リア充には程遠く、4人がそれぞれに心の傷を抱えている。とはいえ、“弱者”や“少数派”にフォーカスを当てた作品ではなく、リア充でいることの大変さにも目配せが行き届き、努力することの大切さも説く。だからタイトルと違って、青春映画としてはむしろ王道だ。

 本作のオリジナリティーは、演劇が原作ならではの限定された視点にこそある。これは野球を“見ている人たちを見る”映画で、カメラは常に客席側に向けられている。切り返すカットもあるものの、客席側からグラウンドを映すカットは一切ない。グラウンドの状況は間接的な情報から想像するしかない。にもかかわらず、否、想像力をうまく利用しているからこそ、我々も彼らと一緒に野球を観戦しているかのような臨場感があるのだ。

 監督は、Vシネマやピンク映画を中心に100本以上を手掛けている城定秀夫。恥ずかしながら勉強不足で認識していなかったこともあり、演出に自己主張を差し挟まずに映画的な時空間を立ち昇らせる手腕に驚かされた。「天才職人監督」と評されているらしいが、その通りである。★★★★★(外山真也)

監督:城定秀夫

原作:籔博晶、兵庫県立東播磨高校演劇部

出演:小野莉奈、平井亜門、西本まりん、中村守里

7月24日(金)から全国順次公開

© 一般社団法人共同通信社