長崎県内 キャッシュレス化進む ポイント還元で急増 店舗は手数料負担重く

利用可能なキャッシュレス決済の表示が並ぶスワン・ドライ古賀工場店のカウンター=長崎市古賀町

 政府のキャッシュレス決済ポイント還元事業が6月で終わった。本県の人口当たりの登録店数は全国平均を下回ったものの、これを機にキャッシュレス利用者は急増したもよう。今後は店舗にとって決済手数料の負担増が見込まれ、決済手段の選別や離脱もありそうだ。
 還元事業はインバウンド(訪日外国人客)誘致や消費税増税に伴う消費の腰折れ防止のため、昨年10月に開始。電子マネーなどで買い物をすると最大5%分を還元した。
 九州経済産業局によると、本県は1万1533店が登録し、人口千人当たり8.6店。全国平均9.1店を下回り、担当者は「大消費地から離れた島が多い上、高齢経営者も多く、キャッシュレス化に投資するニーズが控えめだった」と推測。10店以上は東京、石川、京都、沖縄、福岡など大都市や観光地が目立つ。
 クリーニング店「スワン・ドライ」を展開するスワン(長崎市)はQRコードによるスマートフォン決済(以下QR決済)だけで10種類が使える。交通系ICカードも含めると、支払いに占める割合は25%程度。還元開始前と比べ10ポイント以上増えた。同社幹部は現金と比べ「釣り銭を用意する手間が省け、渡し間違いもない」と利点を挙げる。
 長崎浜んまち商店街振興組合連合会はインバウンドを取り込もうと昨年2月、QR決済を導入。共通端末で多様な電子決済に対応している。ある加盟店は「新型コロナウイルス感染拡大で現金のやりとりを嫌う客が増えた」。加盟数は約500店に拡大。物販を中心に、飲食や医療系も増えつつある。客単価が高い50~60歳代に浸透するクレジットが利用額の7割程度を占め、QR決済はまだ1割に満たない。同会決済事業委員会の高橋孝次委員長は「インフラは整った。だがコロナで肝心のインバウンドがいない」と残念がる。
 それでも、QR決済事業者「ペイペイ」によると、15日時点の県内加盟店数は、政府の還元開始直前と比べ1.5倍に急増。長崎出島ワーフの「アティックコーヒーアンドダイニング」などグループ3店は6月、ペイペイの利用が計600件に上った。野田信治代表取締役は「県外からの観光客はQR決済が多い。財布を持たずに来店する地元客も増えた」と話す。
 ただ、QR決済は釣り銭不要だが、アプリの起動やレジの操作で現金より時間を要する場合があり混雑時のネックになるという。これに対し、交通系カードは店側端末にかざすだけで手軽。状況によって複数の電子決済を使い分ける客も少なくないようだ。
 県内の交通系カードの発行枚数は、長崎バスが昨年9月から利用開始した「エヌタスTカード」が14万枚を突破。県営バスなど他社・局が3月以降順次導入した「ナガサキニモカ」は約5万枚で追う。
 一方、加盟店が決済事業者に支払う手数料を3.25%以下に抑え、政府が補助する仕組みも6月で終了。ペイペイは来年9月まで無料を維持するが、それ以降は未定としている。複数のQR決済を扱う店からは「3%負担し続けるのはつらい」「現金決済より入金が遅い。手数料負担が増えれば離脱もあり得る」との声も漏れ、決済事業者の再編・淘汰(とうた)にも注目が集まる。
 長崎タクシー共同集金(長崎市)は7種類の電子決済に対応。長崎交通圏の決済全体に占める割合は26%で、この1年余りで8ポイント増えた。同社幹部は「この比率が高まるほど各タクシー事業者の手数料負担が大きくなる。乗客が増えればいいが…」と悩ましげだ。

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