黒雨

 色と雨とが結び付けば、どことなく趣深い。「青雨(せいう)」「緑雨(りょくう)」は青葉、新緑を濡らして降り注ぐ雨。「紅雨(こうう)」とは花に降り注ぐ雨のことで、春の花の色を雨が映しているらしい▲夏の季語「白雨(はくう)」は明るい空から降る夕立だが、「白驟雨(はくしゅうう)」だと雨脚のしぶきが白い、秋のにわか雨をいう。「白」と「雨」とが重なれば、言葉の響きもとりわけ美しい▲「黒」との組み合わせに限っては恐ろしい雨を表し、趣も何もあったものではない。「黒雨(こくう)」とは真っ黒な雨雲から降る雨で、豪雨、猛雨を指すという▲あの日の空の色はただ黒く、あふれた水は泥の色をしていた。死者・行方不明者299人に及んだ長崎大水害から38年たち、長崎市内ではきのう慰霊祭が営まれた。あの時どうしたか。周りはどうだったか。鮮烈に記憶がよみがえった方も多いだろう▲あの雨の音、あの川の色は、残念ながら記憶の中だけではなく、今も現実にある。今月6日に本県を襲った豪雨で、特に大村市では1時間、1日の降水量が観測史上、最も多かった。短時間のうちに雨がどっと降る回数は九州全体、昔よりもぐんと増えているらしい▲「あれから38年」の日、長崎市では大雨などの注意報が出された。空模様をうかがえば、黒雨をもたらす雲の色は心なしか、黒さを増したようでもある。(徹)

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