投手が突然制球を乱す理由とは… 元メジャー藪恵壹氏が挙げる主な3つの原因

なぜ突然制球を乱すのか? 藪恵壹氏が解説

対戦する打者は「打席の中でもアジャストする」プロ、それ故に…

阪神は23日、甲子園での広島戦に2-4で敗れた。この日、663日ぶりの1軍白星を目指した藤浪晋太郎投手は、初回に2点の援護をもらうと、5回まで走者を背負いながらも無失点。勝利投手の権利を手に入れたが、6回に安打と2四球などで2死満塁とすると、ピレラに満塁弾を運ばれて逆転を許した。

以前は打者の頭上を越えるような抜け球もあった藤浪だが、この日は中盤まで荒れる様子はなかった。だが、6回に連続四球を与えるなど急に制球を乱した。藤浪に限らず、プロでも突然ストライクが入らなくなる投手がいるが、なぜ、このようなことが起こるのだろうか。阪神OBでメジャーでも活躍した藪恵壹氏は「プロなのに、ではなく、プロだから、だと思いますよ」と、その理由について解説する。

「試合の中でイニングが深くなってくると、同じ打者と3度目、4度目の対戦となります。そうすると、投手にも打者にもお互いの情報が積み重なって増えてくるわけです。打者もプロだから、同じような攻めで何回も打ち取れるものじゃない。打者が試合の中でアジャストしてくれば、当然投手は投げるコースを変えていかなければならない。プロの打者は打席の中でもアジャストするから、1つ目のストライクは空振りだったのが、次はファウルになって、最終的にはヒットゾーンに運ぶ当たりになったり、下手したらホームランになったりということもあるわけです。投手は打たれたくない意識があるから、どんどん投げづらくなりますよね」

投手も打者も互いにプロ。「さっき、このコースに投げてファウルにされたから、次はヒットにされるかもしれない」「三塁走者がいるからワンバウンドするフォークで空振りを狙いにいきづらい」などといった心理的な駆け引きも生まれ、投手はただ単にストライクゾーンに投げ込めばいいわけではなくなる。

「打者が打ってこないと思えば、いくらでもストライクは投げられますよ。でも、投げるボールを打ち崩しに来るプロの人間がいる。投手は打たれたなくない意識があるから、コースを狙ってもどうしてもボールが続く状況も生まれてしまいます」

制球を乱す要因の1つは「投げ始めのタイミング」 バッテリーの相性にも注目

これに加え、疲労により生じるメカニックのズレが制球を乱す原因になることもある。「ボールがすっぽ抜ける」という表現をよく聞くが、ボールが浮いてしまう原因は「腕が振り遅れていることにある」という。

「試合中に疲れが溜まってくると、腕が高く上がらなくなったり、上がるタイミングがずれたりします。基本的に、ボールは高いところから低いところに向かって投げるもの。投げ始めの位置が高くなければ低めに投げることは難しいんですね。でも、試合中に疲労が溜まってくると、腕を上げるタイミングが遅くなってくるので、投球動作で上げた足を踏み込んで着地させた時、まだボールを持った手が一番高い位置に達していないことがあります。そうすると、腕を振り遅れてボールが抜けてしまう。振り遅れないためには、腕を上げる前の段階、投げ始めでボールを持った手を下げる時に少し早めのタイミングで動くといいでしょう」

藪氏が、この対処法を見つけたのは、メジャーに移籍した後だったという。日本よりも硬いメジャーのマウンドでは、投球動作で左脚を踏み込んだ時に地面から突き上げる感覚が強く、腕を振り遅れてボールが抜けることが多くなった。だが、メジャーで活躍する投手たちを観察してみると、テイクバックを小さくして早めに腕が上がるように工夫し、踏み込んだ足が着地する時にはすでにボールを持った手が一番高い位置まで来るようになっていた。「タイミングの取り方を調整することは大切ですよ」と藪氏は話す。

もう1つ、投手が制球を乱す時の要因として、捕手との相性が関係することもあるそうだ。調子がいい時、投手の視界に打者は入ってこず、的とするべきキャッチャーミットしか見えていないという。逆に、調子が悪い時には、キャッチャーミットにしっかり視点を定めて投げ込みながら、状態を整えていきたい。だが、捕手の中には、投手が投球動作に入っている間にミットの位置を動かす癖のある人もいるという。

「投手の立場から言うと、捕手にはミットを構えた位置のままにしておいてほしい時もあるんです。ミットを的としているんだから、ボールをリリースするまで同じ位置に構えていてもらった方が断然投げやすい。捕手が投手のコントロールを鍛えることは多分にあります。なので、投手が乱れ始めた時、捕手がどんな構えをしているか見てみるのも面白いかもしれません」

投手のコントロールだけに注目しても、いろいろな要素が絡み合っている。決して簡単に攻略できないからこそ、野球は面白いスポーツと言えるのかもしれない。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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