<いまを生きる 長崎コロナ禍> 元小学教諭が無料の学習室開設 「学び残し」なくしたい 子どもの貧困と学力格差が広がる状況を危惧 32年間勤めた公立学校を早期退職

 「おはようございます」「今日は何をするの?」。毎週末、諫早駅前のビルの一室の机に向き合う小中学生たち。その名は「バスターミナル学習室」(永昌東町)。学習塾ではない「小さな学校の応援団」。学習目標を決めると、持参したドリルなどを開く。
 開設したのは元小学教諭の岩永和也さん(56)=長崎県諫早市=。保護者の経済的問題を背景に、子どもの貧困と学力格差が広がる状況を危惧し、32年間勤めた公立学校を早期退職。昨年5月、無料の学習室を始めた。60人余りが通っている。
 「学習への困り感」を子どもと保護者に尋ねると、授業内容を十分に理解できないまま次の学年に進む「学び残し」があり、保護者も教育にかける時間や金銭的余裕がない状況が浮かび上がった。
 「授業で分からない問題に印を付けて持ってきて」「テストの点数が悪くても、一緒に考えよう」。ともに解き方を考え、基礎学力の定着に重点を置く。「分かるまで、できるまで教えられる喜びがある。怒ったりせず、そっと見守るしかできない」
 新型コロナウイルス感染症が拡大し、学校が休校になった3月以降、学習室も休止。分からない問題に悩む子どもたちからSOSの電話が鳴った。そこで、保護者が課題の写真をメール送信し、岩永さんが動画で説明する「ウェブ学習室」を急きょ開設。記号を使った地図の書き方、国語辞典の使い方、分数計算…。課題を順序立てて説明する様子を10分程度収録し、ホームページに掲載した。
 「教科書を読むだけでは、理解が難しい子どもがいるし、働いている保護者はそばで教えられない。新型コロナで、学び残しは確実にでてくる」。5月中旬に学校は再開したが、学力格差が広がるかもしれない、という不安はつきまとう。
 「ユーチューバーになるから勉強しなくていい」。将来の夢を尋ねると、こう答える子どもがいる。学力だけの評価軸で進学先や就職先を決め、希望や得意分野との乖離(かいり)が早期離職を加速させているとみる。
 岩永さん自身は複数の仕事を掛け持ちしながら、生活を支える。学習室はボランティアだ。なぜか。「本音で言うと、自分が満足できる教育ができるという自己満足にすぎないのかもしれない」
 そう自問自答し、子どもが学びに向かう力を付ける支援こそが「一生のテーマ」と言う。
 学習室では、近くの商店街との交流や座禅などの体験活動、保護者向けの講演会にも力を注ぐ。「社会との関わりの中で、将来への夢を志にし、長崎県で働きたいと思ってほしい」。学び残しをなくし、職業選択の幅を広げ、地域に貢献できる人材育成につながる-。一歩先を見据えながら、一歩ずつ前に進んでいる。
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 バスターミナル学習室は毎週土、日曜と夏休みなどの長期休業日。無料(別途、保険料あり)。岩永さん(電090.5720.6661、電子メール=bus.study123@gmail.com)

「分かるまで、できるまで」をモットーに子どもに向き合う岩永さん=諫早市永昌東町、バスターミナル学習室

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