【やまゆり園事件4年】障害者権利条約の絵本、英語版を刊行 全盲の藤井さん

「やまゆり園事件が問うているのは社会の寛容性だ」と語る藤井さん=東京都中野区

 県立知的障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)で入所者19人が犠牲となった事件から26日で4年。事件の裁判が終わり、死刑判決が確定してから初めて迎える「鎮魂の日」に、全盲でNPO法人日本障害者協議会(JD)代表の藤井克徳さん(71)が5年前に手掛けた絵本「えほん障害者権利条約」(汐文社)の英語版を刊行する。「19人の思いを背負い、二度と事件を繰り返させない」との決意を込める。

 障害者の差別禁止や社会参加を促す権利条約は2006年12月に国連総会で採択され、日本も14年に締結。そんな条約の意義を子どもたちに分かりやすく伝えようと、15年5月に日本語版を刊行した。全国の小中学校の図書館などに配架され、その数は2万部を超えるという。

 権利条約を擬人化した「イエローリボン君」が、条約を根付かせながら世界を旅して日本にたどり着くまでを描いた物語。藤井さんが文と構成を練り、そのイメージを版画家の里圭さん(43)がぬくもりある版画で表現した。英語版も同様だ。

 〈権利条約は今の社会へのイエローカードであり、「こんな社会をめざしましょう」とさし示す北極星でもあるのです〉

 絵本の冒頭には日本語版を踏襲し、そうつづった。「社会には植松聖死刑囚の言動を肯定する『小さな植松』が少なからず存在する。だからこそ、権利条約の重要性はさらに増している」と藤井さん。新型コロナウイルスの感染拡大や少子高齢化対策として「命の選別」が声高に叫ばれる現状に強い危機感を募らせる。

 お気に入りの場面がある。車イスで働く女性や盲導犬に引かれて横断歩道を渡る男性…。障害者と健常者が地域で共に暮らす様子が見開きで描かれている。「障害のある人が住みやすい社会は誰もが住みやすい社会」。それが、藤井さんの目指す「未来予想図」だ。

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