「ポテサラ論争」我が家の場合、手作りが安いとは限らないのに…

世間ではポテサラ論争が話題になりました。これは子連れの女性がスーパーの総菜コーナーでポテサラを買ったら、「母親ならポテトサラダくらい作ったらどうだ」とそばにいた中年男性が言い残して去っていったという話。見知らぬ人から、「母親ならこうするべき」という価値観を押しつけられるのは苦しいことです。これが夫なら、もっとつらいかもしれません。


収入が減った夫から兵糧攻め

コロナ禍で収入が実質目減りしている人は多いようです。残業代がつかなくなったり、在宅勤務になったために家庭のネット環境を整えるための出費があったりするためです。食費の増大にも歯止めがかかりません。

「私は専業主婦で、結婚してからずっと夫が家計を管理しています。私は食費+アルファをもらうだけ。夫の収入も知らないんです」

サクラさん(40歳)は、7歳年上の男性と結婚して13年。12歳と10歳の子がいます。もともと職場の先輩と後輩という立場上、遠慮があったのか結婚当初、「生活費を渡すから」という夫のやり方に従ってきました。

「社会人のときは、本当に尊敬する先輩だったんです。実際、仕事もできたし。ちょっと高圧的なところもありましたが、それは仕事上ではリーダーシップと受け止められていました。結婚したら、それが抑圧に変わったんですが……。それでも夫の言うことを聞いていれば間違いないと私自身も思っていました」

ところがこのコロナ禍で、夫の収入は減ったようす。さらに在宅勤務が続いて食費も雑費も増える一方でした。

「今まで月に5万円だったんです。ところが5月に渡された食費は4万円。6月はさらに減って3万円。食べ盛りの子を抱えて、これでは無理だと夫に言ったら、『計画的に献立をたてればいい。だいたいきみは計画性がないんだよ』と。1ヵ月の献立表を作って提出することになりました」

今までだって食材をロスしないよう、考えながら作ってきたサクラさん。それなのに1ヵ月分の献立表を先に作って夫に見せなければならないという事態に、息苦しさを覚えました。

「夫が稼ぐ、私が家庭をマネージメントする。そういう役割分担だと割り切って専業主婦になったつもりです。だけど夫が家庭運営に口を出してくるなら、それは役割分担ではない。そう思ったんですが、やはり夫婦の力関係で、私には言い出せませんでした」

いくら献立表を作ったところで素材のあるなし、その日の気分によって作る料理は変わってくるはず。1ヵ月分の献立など仕事でもなければ作成する意味がありません。

ダメ出しの嵐に…

それでも食材のことを考えながら、サクラさんは献立表を作って夫に提出しました。夫からはメールに添付するようにと指示されたそうです。

「メールには、私はあなたの収入やこの家の資産について知る権利はないのでしょうか、と書いておきました。夫からはそのことについては言及はなく、添付した献立表には、『牛肉を買いすぎ、豚や鳥に変更すべき』だの『加工品は買わずに作れ』など、いちいちダメ出しが入っていました」

いったいこの夫婦、日常的にはどういう関係を築いてきたのでしょうか。

「正直言うと、食費5万円だってキツかったです。それでも、必死にやりくりしていました。あるとき実家の母にぽろりとその話をしたら、以来、母がお米を送ってくれるようになったんです。だからやってこられた。波風立てたくないから、夫とは表面上、うまくやってきました。夫は私が従っている限りは機嫌がいいんです」

ただ、コロナ禍で夫は日常的にイライラするようになっていきました。メールでのやりとりも、実際に面と向かって話すと自分が苛立って大声を上げてしまうかもしれないと夫が配慮したのではないかとサクラさんは言います。

「私も怒鳴られたくないから、メールのやりとりで正解だったとは思っています。ただ、献立表に赤で註釈がたくさん入っているのを見てめげました」

結局、献立表は何度も直し、ようやくOKがでましたが、予算通り3万円ではおさまりそうにないのが現状だといいます。

「私名義の預金がいくらかあるので、少し下ろすしかないかなと思っています。それよりプレッシャーなのは、夫が献立表を冷蔵庫に貼っていること。帰宅するとそれを見て、テーブルの上をチェックするんです」

とはいえ、予定が変わることもあります。予想に反して安い食材が買えれば、そのときは献立表を訂正しておくのがサクラさんの仕事。

「それこそポテサラやひじきの煮物などは、手作りかどうか夫が確認しているみたいなんですよね」

総菜だってフライだって、買ったほうが安いことは多々あります。ただ、夫は手作りのほうが安いと信じ込んでいる上、「母親なら、妻なら、すべての料理を手作りするのは当たり前」だとも思っています。二重の思い込みがサクラさんを息苦しくさせているのです。

「おそらく、夫の仕事もあまりうまくいっていないのかもしれません。どこもそうでしょうけど、会社の業績もよくなさそうですし。夫は仕事にしか関心がなかったような人。それがうまいかずにイライラして、家庭へのチェックに及んでいるんだと思います」

サクラさんは、どこまでも夫をかばおうとします。ただ、彼女自身の気持ちも弱り始めているのがわかります。“夫に従うだけの人生”で、本当に後悔しないのか、もう一度、自分自身に問い直してもいいのではないでしょうか。

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