レクサスのちょっと微妙な世界を垣間見る熟成クーペ。レクサスRC350【ベース車両一刀両断!!】

 モータースポーツ専門誌のauto sport本誌では現在、スポーツカーをはじめ、ホットハッチ、セダン、スポーツクーペなどあらゆる市販ロードカーを“ぶった切る”ピリ辛・市販車インプレッションを不定期連載している。同企画に登場するのは、モータースポーツの中でも、いわゆる“箱車レース”と呼ばれるカテゴリーにおいて、レーシングマシンのベースとなるロードカーたちだ。

 今回はそんな『ベースマシン一刀両断!!』シリーズの第19回目レクサスRC350編をお届けする。2014年の登場以来、レクサスのイメージリーダー的な存在であるRC。エレガントなスタイルと磨き込んだ走行性能を武器にサーキットでも活躍を見せるRCの世界に迫る。
 
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 リヤドアを廃し、あえて2ドアにする意味は何なのか。レクサスRCに乗ると、そんな疑問を抱く。普通のセダンに高出力エンジンをブチ込んだだけのエボモデルじゃあるまいし、クーペであるRCに広々としたコックピットは必要なのか。

 クーペというのはパーソナルなクルマのスタイルだ。リヤシートはオマケに過ぎず、そこはバッグの指定席になるはず。さらに言えば、屋根すらなくて構わない。ところが、RCはそうではない。このクルマはクーペではなく、2ドアセダンなのだ。

レクサス350のリヤスタイル

 その理由の最たるものは、分厚いルーフだ。これは2ドアボディのルーフラインと後席のヘッドスペースを両立させるためだろうが、重さを連想させるし、スタイリングとして美しくない。

 RCシリーズとしては、2.0リッター4気筒ターボの『RC300』、2.5リッター4気筒+ハイブリッドの『RC300h』、そして3.5リッターV6の『RC350』が展開されている。

 2.0リッターターボは他のトヨタ製ダウンサイジングターボと同様に、スペックほどトルク感がない。また、ハイブリッドもやはりレスポンスが悪い。そのため、乗り比べると3.5リッターを選ばざるを得なくなる。

 この大排気量エンジンは、IS350とともに登場した旧型こそ初期のアクセルレスポンスだけが強烈な“子供騙し”なセッティングだったが、それから10年以上を経た現行型はマトモになった。

RC350に搭載される3.5リッターV6エンジンは、最高出力318ps、最大トルク38.7kgmを発生する。

 面白い点は、各タイプ間の車両重量がほぼ変わらないことだ。そういう意味でもRC350しか選択肢はない。

 3.5リッターV6エンジンのフィーリングはパワフルかつシャープだが、刺激的、官能的というようなことはない。これにスムーズな8速ATが組み合わされるため、クルマとしては高性能サルーン的な性格だ。

 強烈なキャラクターを求めるならば、5.0リッターV8を搭載したスペシャルモデルの『RC F』を選ぶのもありかもしれない。

■直近のMCで乗り心地が向上。18インチタイヤ装着のノーマルグレードがベスト

 RCシリーズは2018年のマイナーチェンジで大幅に改良された。プラットフォームまで手が入ったようで、決定的に不足していたフロア剛性が引き上げられている。

 それでも充分とは言えないが、乗り心地もハンドリングもそれなりのレベルに仕上がった。

 ステアリングやブレーキの感触は相変わらず悪く、「ハイペースで走って気持ちいい」というような状況にはならないものの、改良前のように不快感を覚える場面が減ったことは間違いない。

 ハンドリングはフロントの重さを感じさせるもので、一般的な言い方をすればアンダーステアが強めだ。

 ターンインしようとステアリングを切ると、前方から「よっこらしょ」という声が聞こえてきそうだ。

 ボディがより大きく重いLCのほうが、ハンドリングの面でははるかに小さなクルマだと勘違いできるほどである。

クーペとしては広々としたコックピットを持つRC。ステアリングスイッチを除けば、インテリアの質は高いと言える。フル液晶のメーターパネルは中央のリングが表示モードによって移動するギミックがあるが、これはLCと共通で、アルテッツァ由来のアイコンだ。

 この傾向はよりフロントが重いRC Fでは一層、顕著になる。だが、このあたりは低剛性な古いプラットフォームにワイドな大径タイヤを組み合わせているので仕方がない部分か。

 いいバランスを求めるなら上級グレードの『Fスポーツ』よりも、18インチタイヤ+ノーマルサスの組み合わせのほうがベターで、RCの性格にはマッチしている。

 とは言うものの、もっと軽量でコンパクトなIS350を選択したほうが“パーソナルクーペ”的な空気を味わえる。セダンとしてはタイトで、リヤシートの実用性が高くないのがポイントだ。

 クーペをクーペたらしめるのは、2ドアであることではなく、“個人的な空間”であることだ。さらに言えば、作り手には「どのようなパーソナルスペースを提供するのか」が試される。

 上質さや性能、機能の追求はセダンでやればいい。クーペとしてのアピール力は、RCだけでなく、LCも不足している。とどのつまり、それは「高級さを欠く」ということなのだが。

RC FよりベーシックなモデルのRC350はスーパー耐久のST-3クラスでその姿を見ることができる。

■レクサスRC350 主要諸元

車体

車名・型式 DBA-GSC10-RCZLH

全長×全幅×全高 4700×1840×1395mm

ホイールベース 2730mm

トレッド 前/後 1580/1600mm

最低地上高 125mm

車両重量 1690kg

乗車定員 4名

駆動方式 FR

トランスミッション 8速AT

ステアリング 電動パワーステアリング

サスペンション 前/後 ダブルウイッシュボーン(スタビライザー付き)/マルチリンク(スタビライザー付き)

ブレーキ 前/後 ベンチレーテッドディスク/ベンチレーテッドディスク

タイヤサイズ
235/45R18

エンジン形式 V型6気筒

総排気量 3456cc

最高出力 234kW(318ps)/6600rpm

最大トルク 380Nm(38.7kgm)/4800rpm

使用燃料/タンク容量 プレミアムガソリン/66L

車両本体価格 649万4000円

auto sport 2019年12月13日号 No.1520より転載

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