MotoGP第3戦:表彰台まで0.5秒。4位を獲得した中上「マルケス兄のライディングスタイルに挑戦した」

 大きな躍進だった。中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)は、MotoGP第3戦アンダルシアGPで、4位という自己ベストリザルトを獲得した。前戦スペインGPでの不本意な10位フィニッシュから、わずか数日で達成した好成績。アンダルシアGPで、中上は新しい取り組みに挑戦していた。

 MotoGPクラスの初戦となったスペインGPでは、レースウイークを通じて苦戦した中上。それが一転、スペインGPと同じくヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエトで行われたアンダルシアGPでは初日のフリー走行から上位につける。おおよそのデータを比較してみよう。

<スペインGP / アンダルシアGP>※カッコ内はトップとの差
フリー走行1回目:14番手(+0.779) / 8番手(+0.529)
フリー走行2回目:11番手(+0.562) / 1番手
フリー走行3回目:14番手(+0.656) / 4番手(+0.258)
フリー走行4回目:9番手(+0.462) / 1番手
予選:15番手 / 8番手
決勝:10位(+21.553) / 4位(+6.113)

 こうしたアンダルシアGPの結果につながった要因には、マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)のデータとの比較、それを元に、マルケス兄のそれにセッティングを近づけたことがある。チームやHRCのテクニカルマネージャー、横山健男氏とともにデータを確認し、横山氏から、ときにはレプソル・ホンダ・チームのマネージャー、アルベルト・プーチ氏からもアドバイスがあったという。

 奇しくもマルケス兄が走らせる2020年型ホンダRC213Vは、今季、中上が駆る2019年型のそれに近いものがある。2020年型マシンは、エンジンやエレクトロニクス面はアップデートされているが、空力デバイスは2019年型のものを使用する。新型コロナウイルス感染症の影響により、エアロボディの仕様について2020年シーズンから2021年シーズンにかけては1度のアップデートのみに限られる、と技術規則が改訂。マルケス兄曰く「(新しいものに取り組むには)リスクが高い」というのがその理由だった。

 そしてさらに、中上は自身のライディングスタイルをマルケス兄のそれに近づけた。実は中上とマルケス兄、ライディングについては「データによると正反対」だったという。「最初にデータを見たときは、びっくりしましたよ。どうやるんだろう、って」。中上は、就寝前にはイメージトレーニング。8番手を獲得した予選日には、こう語っている。

「完全に同じにはできませんが、彼の乗り方、バイクのコントロールの仕方で乗ってみました。マルクは特別な走り方をしていますね。彼は、ブレーキング時のリヤの使い方をよく知っています。マルクはリヤブレーキをかなり使い、フロントタイヤだけでバイクをストップさせようとしていなかったのです。リヤも使っていました。これが、マルクの強みなんです。僕もマルクと同じように走ろうと、コーナー進入からエイペックス(コーナーの頂点)に向かってかなり改善を試みました。これで、さらにバイクに自信が持てるようになり、ミスも減りました」

 マルケス兄スタイルのライディングに取り組み、それが目に見える結果につながった。決勝レースでは、序盤から6番手付近を走行。バレンティーノ・ロッシ(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)やマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)などの表彰台争いが見える位置から、終盤には4番手に順位を上げ、3位のロッシとは約0.567秒差の自己ベストリザルトでフィニッシュした。

 実はフロントタイヤのグリップには悩まされていたという中上だが、レースペースはスペインGPよりも上がった。確認してみると、アンダルシアGPでは1分39秒前半のタイムを、とてもコンスタントに刻んでいる。このラップタイムはビニャーレスやロッシと、そう変わるものではない。マルケス兄のライディングスタイルは、レースでも奏功したように見える。中上自身も「ごらんのとおり、すごくうまくいきました」と認めた。

 アンダルシアGPは、ホンダにとって厳しいレースウイークとなった。王者マルケス兄は、前戦スペインGPの決勝レースの転倒による右上腕骨の負傷で欠場を決断。カル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)も同じくスペインGPで左手舟状骨を骨折し、火曜に手術。それを押しての参戦となり、本来の走りとは程遠かった。そしてホンダファクトリーチームのアレックス・マルケスは、MotoGPクラスのルーキー。今はまさに、MotoGPマシン、そしてMotoGPクラスでのレースに慣れていこうとしている最中だ。

 クラス参戦3シーズン目の中上は、こうした状況のなかでホンダ筆頭の存在となった。ヤマハ勢の表彰台を独占は許したものの、中上は新しい挑戦のなかで4位フィニッシュという仕事を果たした。躍進のレースとなったアンダルシアGPを経て中上は「うまくいけば、もうすぐ表彰台争いができると思います」とも自信をのぞかせる。新しい状況、新しい挑戦のなか、アンダルシアGPで得た糧は、中上に表彰台という念願をもたらすだろうか。

© 株式会社三栄