ERC開幕戦:ソルベルグ、ブリーンら実力者たちを下した“ロシアン・ロケット”が完勝

 シーズン全6戦に短縮された2020年ERCヨーロッパ・ラリー選手権第1戦『ローマ・デ・キャピタル』が7月24~26日に開幕。2度のERCチャンピオン獲得経験を持つ地元の英雄ジャンドメニコ・バッソ(フォルクスワーゲン・ポロGTI R5)や、2003年WRC世界ラリー選手権王者の血を継ぐオリバー・ソルベルグ(フォルクスワーゲン・ポロGTI R5)、MRFタイヤの開発を担うクレイグ・ブリーン(ヒュンダイi20 R5)ら実力者を抑え、2018年ERCチャンピオンの“ロシアン・ロケット”ことアレクセイ・ルカヤナク(シトロエンC3 R5)が、一度も首位を譲らない完勝劇でローマ戦キャリア2勝目を飾っている。

 新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の影響で開幕時期が大幅にディレイとなった2020年ERCシーズンが、イタリアの首都戦でいよいよ開幕を迎えた。今季も引き続きフランスの強豪Saintéloc Junior Teamからのエントリーとなった2018年ERCチャンピオンは、新コドライバーのドミトリー・エレミエフを迎えて心機一転。

 2年目となるシトロエンC3 R5もすでに手中に収め、スピードスターながらクラッシュ多発の“壊し屋”というイメージを払拭する抜群の安定感を披露し、実に255日ぶりの実戦ドライブながら初日レグ1(デイ1)の全6ステージを制覇し、後続に30秒以上のマージンを築いて夜のオーバーナイト・サービスへと帰還した。

「本当に素晴らしい感触で、まったくプッシュする必要すらなく、ペースをコントロールすることに専念したよ」と、上機嫌でラリー初日を振り返ったルカヤナク。

「今日は満足で、マシンもピレリタイヤも良く機能してくれた。個人的にもリラックスして集中できているし、この長い自粛期間もドライビングにはそれほど影響がなかったようだね」

 一方、このイベントから新たにフォルクスワーゲンへとスイッチした地元の大ベテランであるバッソは、序盤3ステージで首位に10秒差圏内に喰い下がったものの、後半のループで遅れ34.1秒差の2番手に留まった。

「もちろん、ERCの総合順位で競いたいのは山々だが、同時に(国内選手権登録である)イタリア選手権でのポジションも気にして戦う必要がある。その点では首位をキープしているし、毎日状況が変わるはずだから悪くはないだろう」と語ったバッソ。

 その背後3番手には、かつてのジュニアU28登録に相当するERC1カテゴリーで首位をいく18歳のオリバー・ソルベルグが、ポロGTIでのフルターマック・ラリー初挑戦ながら見事なドライビングを披露。地元スペシャリストのバッソから約13秒遅れに留め、2003年WRC王者ペター・ソルベルグの血統を証明してみせた。

SS2直前にトレードマークの眼鏡を失くしながらも、レグ1全体で3番手につけたオリバー・ソルベルグ
チームも移籍し、フォルクスワーゲン・ポロGTI R5にスイッチした地元の英雄ジャンドメニコ・バッソは2位入賞で国内選手権勝者に
イベント会期中はERC COVID-19 protocolが導入され、厳重な防疫対策が敷かれた

■オリバー・ソルベルグ、まさかのメガネ紛失!

「実はSS2の直前に大事な眼鏡を失くしてね(笑)。前がよく見えないばかりか、片眼だと距離を測るのにも苦労したよ」と衝撃の事実を明かしたオリバー。

「父が発見してくれたんだけど、残念ながら誰かに踏まれた後だった。だからまったくリスクを負わずに楽しんだんだ。タイヤ管理を中心に基本的なターマック・ラリーの作法全体を理解し、可能な限り学ぶことに専念した。でもタイムは僕の想像以上に良かったよ」

 4番手にルーマニア国内選手権チャンピオンのシモーネ・テンペスティーニ(シュコダ・ファビアR5)、5番手に元ドイツ王者でWRC2優勝経験もあるファビアン・クルム(フォルクスワーゲン・ポロGTI R5)、そして今季からTeam MRF Tyresの開発ドライバーとしてERC復帰を果たしたブリーンのトップ6で夜を明かした一行は、気温30度越えを記録した酷暑のレグ2(デイ2)へ。

 ここでスパートを開始したのが前年度勝者のバッソで、最初の2ステージでベストを記録し首位ルカヤナクとのマージンを削っていく。しかしこの日の“ロシアン・ロケット”は落ち着いた対処を見せ、ここを2番手タイムで切り抜けると、その後も無用なアタックを避けてマージンをコントロール。最終ステージのキャンセルもあり、16.1秒のギャップを残してERC通算10勝目を飾ってみせた。

「このレグ2は長くとてもタフで、本当に暑い1日だった。自分たちのパフォーマンスには満足しているし、この困難な時期の多大なる支援にも感謝している。制御されたドライブができ、このロックダウン中にも気持ちと能力を失わなかったのを確認できてうれしい。それに新コドライバーのドミトリーがいてこその結果だね」と満足げに振り返ったルカヤナク。

 2位バッソに続き、3位に入ったオリバーがERC1のクラス優勝を獲得。そして4番手にはSS13でスピンを喫したテンペスティーニを1.3秒差でかわしたブリーンが入り、インド製ラリータイヤの進捗確認と貴重なデータを手にしている。

 続く2020年ERC第2戦は、ラトビア西部を舞台とした高速グラベル・イベントの『ラリー・リエパヤ』が8月14~16日に争われる。

オリバーは初のフルターマック挑戦ながら3位に入り、ERC1のクラスウイナーにも輝いた
MRFとのERC初戦が厳しいターマック戦となったものの、最後の最後で4位浮上を果たしたクレイグ・ブリーン
キャラクターとは似つかわしくない、落ち着いたラリー運びで勝利したルカヤナク。ローマ2勝目、ERC通算10勝目を飾った

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