おつまみリノベーション!? 「おつまみスープ」はウィズコロナ時代最強の「酒の肴」となるか

リノベーション──一般的には「住まいの改修・改善」のことをこう呼びますが、空間環境だけではなく日常生活全般をもリノベーション(改革・刷新)すると、QOLはよりいっそう向上していくはず。LogRenoveは、日々の何気ない暮らしのなかで、我々が直面するさまざまな悩みの解決策を、斯界の識者とともに探っていきます。さあ、私たちと一緒に「ライフスタイルのリノベ術」を追究していきましょう。

Q.千葉から東京の会社まで、約1時間かけて通勤しております。都内の新型コロナウィルスの感染者数がなかなか減少せず、勤め先の近所で飲むのも怖いので、飲みの誘いは極力断り、仕事が終わったらすぐ帰宅しています。だけど、毎日妻に夕飯を用意してもらうのも、なんとなく悪いな……と。ましてや「もうちょっと飲みたいからおつまみつくって」なんてことは、とてもじゃないけど言い出せません。いっそ自分でつくりたいのですが、料理の経験はほぼゼロ。こんなボクでも簡単にできるおつまみを教えてください。(35歳・既婚男性/旅行代理店勤務)

汁ものをつまみにする風習は戦国時代からあった!?

あります! 料理初心者でも簡単につくれて、美味しくて、ヘルシーで、ダイエットにも良く、しかもキッチンをさほど散らかすこともないので、ともすれば“ありがた迷惑”でしかない“男料理”に終始してしまう心配もご無用。奧さんの日々の家事仕事をねぎらい、「たまには…」とつくってあげたら大喜びしてもらえること間違いなし! まさにウィズコロナ時代においては最強のおつまみ──それがズバリ「おつまみスープ」です。

「汁ものをおつまみにお酒?」「液体に液体って…変じゃない?」といった疑問の声も聞こえてきそうですが、熱々の味噌汁をすすりながら飲むビールは絶対に旨い!
料理研究家兼ライターで、『汁飲み向上委員会』主宰の肩書きを持ち、おつまみスープのレシピをまとめた著書も出版している西益屋ハイジさんは、その魅力について、熱くこう語ります。

「スープや汁ものを肴にお酒を飲むと、当然ながら水分でお腹が膨れてきます。一気にゴクゴク飲み干すのではなく、グラスを片手にチビチビとスープをすするので、おつまみスープ一品で、けっこうお腹がいっぱいになってしまうんです。目的とするかは別問題ですが、お酒が好きな人にとってはダイエットしやすい飲み方と言えるでしょう」(ハイジさん)

「糖質制限ダイエット」が世間でもすっかり定着し、そのなかでも「ぬき」を推奨するメディア情報が多く目につくようになりました。ラーメンの麺を抜いたり、麺の代わりに豆腐を入れるラーメン屋もあります。つまり、糖質摂取量を控えるダイエットメニューとしても、おつまみスープはイチ押しなのです。

ハイジさんがおつまみスープにハマったきっかけは「天ぬき」。いわゆる「天ぷらそばのそば抜き」のことで、昔から庶民に楽しまれているそば屋の酒肴の一つでありました。(※「鴨南蛮そばのそば抜き」である「鴨ぬき」などもあります)

そして、ランチタイムの書き入れどきが終わったころ、店内の空気が少し緩んだ昼下がりに「ぬき」を肴にお銚子を傾けるのは最高なんだとか……。

そば屋の「ぬき」は江戸時代か明治あたりに始まったものだと推察されていますが、汁ものを肴にする慣習は、すでに安土桃山時代から存在していたのだそう。ハイジさんの著書によれば、

「時は天正10(1582)年5月15日。織田信長は武田家を滅ぼした徳川家康をねぎらうため、安土城で饗応した。(その際の饗応役は明智光秀であったが、なぜか怒りを買ってその任を解かれたと言われる)饗宴は3日間続いたそうだが、到着時の献立の中には、ほやひや汁(吉野葛を打った海鞘[ほや]を具にした汁)・鯉汁・山芋の蔦[つた]汁・鱸[すずき]汁・鮒[ふな]汁・鴨汁と6種類の汁ものが明らかに酒肴として饗されている」

※参考資料『別冊太陽・日本のこころ 14 料理』内「特別企画②歴史に残る名料理再現(家康を饗応した信長の安土料理献立)」より

……ということらしく、すなわち、信長も家康も“おつまみスープ党”であった? ならば、日本人のDNAには「汁を肴に酒を飲む=汁飲み」という遺伝情報が残されているはず……。

では、さっそくハイジさんがおすすめする「おつまみスープ」の簡単レシピを、“マリアージュ”に最適なお酒別に、いくつか紹介してみましょう。

【赤ワインに合う!】アボカドの冷製ポタージュ

フルボディの赤にも負けないアボカドの深いコクを味わえる、しっかりとしたおつまみスープです。

[材料(2人分)]
・ アボカド(熟したもの)……1個
・ 鶏がらスープ(※)……400㏄
・ 牛乳……200㏄
・ 生クリーム……適量
・ 塩……適量
・ こしょう……適量

※鶏がらスープは、市販の顆粒スープを指定の湯の量で溶いたものでもOK。

[つくり方]
①アボカドは2つに割って、種と皮をとり、ざく切りにする
②①のアボカドと冷ました鶏がらスープをミキサーにかけ、ざる等でこしながらボウルに入れる
③②に牛乳を加え、塩、こしょうで調味し、冷蔵庫でよく冷やす
④③を器に注ぎ、生クリームをまわしかける

【白ワイン(スパークリングワイン)に合う!】タラトール

火を使わずにつくれるブルガリアの冷たいスープです。

[材料(2人分)]
・ プレーンヨーグルト(※)……300㏄
・ きゅうり……1/2本
・ ディル……適量
・ おろしにんにく……小さじ1
・ くるみ……適量
・ 塩……小さじ1
・ オリーブオイル……小さじ1
・ 水(※)……100㏄

※プレーンヨーグルトと水は、冷蔵庫でよく冷やしておくとひんやり美味しく仕上がります。

[つくり方]
①きゅうりとディルは、みじん切りにする
②ボウルにプレーンヨーグルト、①のきゅうりとディル、おろしにんにく、塩、オリーブオイル、水を入れてよく混ぜる
③②を器に注ぎ、砕いたくるみをのせる

【ビールに合う!】包まない餃子スープ

ビールと相性バッチリの餃子。でも包まないから超簡単! 心地良い皮の食感で、独特の味わいが口の中いっぱいに広がります。

[材料(2人分)]
・ 豚ひき肉……100g
・ キャベツ……適量
・ にら……適量
・ にんにく……1かけ
・ しょうが……10g
・ 餃子の皮……8枚
・ 鶏がらスープ(※)……400㏄
・ しょうゆ……大さじ1
・ 塩……適量
・ こしょう……適量
・ ごま油……小さじ1

※鶏がらスープは、市販の顆粒スープを指定の湯の量で溶いたものでもOK。

[つくり方]
①キャベツとにらは、粗みじん切りにする。にんにくとしょうがは、皮をむいてみじん切りにする。餃子の皮は、半分の大きさに切る
②フライパンを中火にかけて、ごま油を入れ、①のにんにくとしょうが、豚ひき肉、①のキャベツ、にらの順に加えて炒める
③②に鶏がらスープを入れ、沸騰したら、しょうゆ、塩、こしょうで調味し、①の餃子の皮をくっつかないように1枚ずつ加え、1分ほど煮てから器に盛る

【日本酒に合う!】天ぬき

スーパーのお惣菜の天ぷらでも十分美味しいので、気軽にお試しください。

[材料(2人分)]
・ えびの天ぷら……4尾分
・ そばつゆ(※)……400㏄
・ みつば……適量
・ ゆずの皮(なくてもよい)……適量

※市販のめんつゆ(ストレート)、もしくは濃縮のめんつゆを指定の湯の量で割ったものでもOK。

[つくり方]
①えびの天ぷらが冷たい場合は、オーブントースターなどで温める
②丼に①のえびの天ぷらを入れ、熱々のそばつゆを注ぎ、みつばの葉とゆずの皮を加える

【焼酎に合う!】船場汁

さばの缶詰で手軽につくれる大阪伝統の一椀です。

[材料(2人分)]
・ さばの水煮(缶詰)……1缶
・ だいこん……適量
・ 昆布(10㎝角)……1枚
・ しょうゆ……小さじ1
・ 酒……小さじ1
・ 塩……適量
・ 水……500㏄

[つくり方]
①だいこんは、皮をむいていちょう切りにする
②鍋にさばの水煮の缶詰を汁ごと入れ、①のだいこん、昆布、水を加えて中火にかける
③②が沸騰したら弱火にし、だいこんが軟らかくなるまで煮て、しょうゆ、酒、塩で調味する
④③の昆布を除いて、器に盛る

おつまみスープを、より粋(いき)に楽しむ方法

おつまみスープを最後の一滴まで、とことん堪能するコツは「なんといっても“スープ”部分に意識を傾けて味わうこと、これに尽きる!」とハイジさん。

「具材やだしの風味が溶け合う“液体の正体”を確かめる喜びが酒の味に深みを与えてくれるのです。『天ぬき』でいえば、天ぷらそのものは天つゆにつけたえびの天ぷらと同じかもしれませんが、さまざまな風味が溶け出たつゆの味わいは刻一刻と変化します。丼の中で移ろいゆく風景を舌で眺めながら飲む…それこそが、おつまみスープの妙なのです」(ハイジさん)

そのゆったりとした贅沢な時間の過ごし方は、むしろ「独り飲み」や「夫婦飲み」に向いた、慎ましやかな楽しみ方なのかもしれません。ちなみに、最近、ハイジさんがハマっているおつまみスープは……?

「私は無類の辛いもの好きで、とくにタイ料理の唐辛子使いにゾッコンです。今年はコロナ禍で果たせていませんけど、毎年3~5回はタイを旅しており、辛い料理を食べまくります。トムヤムクンに代表されるように、タイ料理は辛いだけでなく、酸味も効いた“酸っぱ辛い”メニューも多いのですが、ゲーンヘットもそのひとつ。『イサーン』と呼ばれるタイ東北部の料理ですが、バンコクの街中でも屋台で買える人気メニューで、日本酒や焼酎、白ワインなどにもバッチリ合う、最高のおつまみスープです」(ハイジさん)

レシピは以下のとおり。もちろん、ビールやハイボールも合うそうですが、辛さが増長されるのでご注意を……とのこと。

【西益屋ハイジさんおすすめ!】お手軽版ゲーンヘット

タイ語で「ゲーン」はスープ、「ヘット」はきのこのことです。

[材料(2人分)]
・ きのこ(※)……100g
・ 玉ねぎ……1/4個
・ とうがらし……適量
・ しょうが……10g
・ レモングラス(※)……適量
・ バジル……適量
・ ナンプラー……小さじ1
・ 塩……少々
・ ライム汁(レモン汁でもよい)……小さじ1
・ 水……250ml

※きのこは、しめじ・まいたけ・えのきだけなど好みのものでOK。
※レモングラスは、乾燥のものをそのまま入れてもOK。

[つくり方]
①きのこは食べやすく切る。玉ねぎは皮をむいて薄切りに、とうがらしは小口切りにする。しょうがは皮をむいてから、包丁でつぶす。レモングラスは薄切りにする。バジルは茎をとり、葉だけ使う
②鍋に分量の水を入れて中火にかけ、沸騰したら①をすべて入れる
③②が再沸騰したら弱火にし、10分程度煮てから、ナンプラー、塩、ライム汁で調味する
④器に③を盛る

ウィズコロナ時代とおつまみスープの相性が抜群な理由とは?

新型コロナショックの影響で、これまでは当たり前だった生活習慣や価値観が根底から揺らぎはじめている今こそ「おつまみスープの時代!」だとハイジさんは断言します。

「おつまみスープの魅力が“液体の正体”を確かめる喜びを肴にすること…だとは前述しましたが、これって、かなり内向的な行為ではないかと思うのです。客同士の間にアクリル板などの遮蔽物を設置し、マスクの着用も義務付けせざるを得ない飲食店が増えるなか、どうしても自宅で飲食する機会が増えていますので、意識を内に傾けて、自分の心に向き合うようなお酒の楽しみ方は、ウィズコロナ時代にマッチするのかもしれませんね」(ハイジさん)

友人や同僚と居酒屋でワイワイ飲みにくいご時世──「いかに宅飲みを楽しめるか?」が日々の幸福度を大なり小なり左右するのは確実です。ぜひ、おつまみスープにもチャレンジして、“自宅居酒屋”メニューのバリエーションに、新しい“彩り”を加えてみてください。

■「汁のみ」を楽しむ心得三カ条

其の一:瞑目瞑想して啜(すす)るがよろし
其の二:天ぷら・コロッケ…なんでも浸して熱々を啜(すす)るがよろし
其の三:水分で満足。ダイエットにもよろし

取材・文:山田g事務所
料理撮影:中島聡美

西益屋ハイジ(にしますや・はいじ)

1972年福岡県生まれ。料理研究家・ライター・編集者。「汁飲み」向上委員会主宰。著書や共著に『おつまみスープ〜お酒に合う汁ものレシピ77〜』、『町中華名店列伝』(ともに自由国民社)、『節約おつまみ手帖』(メディアボーイ)、『おつまみとうんちく135』(双葉社)などがある。出版プロデューサー・編集ライターとして、さまざまな料理関係書籍にたずさわっている。また、多くの健康実用書にレシピ提供もおこなう。ペンネームの「西益屋」は父の実家で熊本県山鹿市にある昭和4年創業の老舗和菓子店、「ハイジ」は千葉県千葉市にある両親経営の喫茶店、それぞれの屋号のハイブリット。

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