「遺体なくせばなかったことに」 使い込みが露呈、激高しながらもなお手を握る妻に対し、夫が選んだのは…

横浜地裁

 「自分が許せず、全て終わらせようと考えた」

 2019年6月、川崎市宮前区の自宅で殺害した妻の遺体を切断して海に遺棄したとして、殺人などの罪に問われた無職の男(27)の裁判員裁判。29日の第2回公判の被告人質問では、自らの失態をとがめた妻に殺意を抱くまでの経緯を被告が説明した。

 被告によると、入籍前に仕事を辞めた被告はそのことを秘すため、出勤を装って外出する生活を送った。「みっともない姿を見られたくなかった。嫌われてしまうと思った」。生活費を工面するため借金を重ね、妻のクレジットカードにも手を出すようになった。

 その後再就職したが、事件の1週間前に預金の使い込みが妻に露呈。被告名義のカードを預けるよう求められ、念書も提出する事態に。さらに事件前日には一時期無職だったこと、入籍時の祝儀を使い込んだことも被告が打ち明けた。「今まで向けられたことのない厳しい目」で妻は、普段使わない「あんた」と被告を呼び激高したという。

 深夜まで話し合いが続いた後、同じ寝室に入った夫婦。眠れずにいた被告に気付いたのか、その手を妻は握った。が、「優しくされて喜んでしまう自分が嫌だった」。被告は拒否した。

 「妻は愛してくれているのに。どうしたら(結婚生活を続ける)覚悟ができるのか」。眠る妻の横で考え続けた末、選んだのは台所に包丁を取りに行く行動だった。

 殺害後、遺体を切断して平塚市の海に捨てた理由には「(殺害した)現実を認められなかった。遺体をなくせば何もなかったことになると考えた」と語った。妻への思いを問われると、「妻には何の落ち度もない。覚悟ができないと自分が言えば良かった」。

 遺族も傍聴する法廷で、身勝手な涙をこぼし声を震わせた。

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