布マスク、また

 5月、小紙の投稿コーナー「えぷろん」に温かな一文が載った。五島市の70代女性が書いている。長いこと花粉症に悩まされ、マスクは欠かせないのに、どこにもない。その頃、新型ウイルスの影響で店頭から消えていた▲困っていたら、友人から工夫を凝らした手作りマスクを多くもらったという。「アベノマスク」ならぬ「トモノ(友の)マスク」と名付けて、ありがたさをつづっている。心尽くしと、タイミングの良さと。二つそろえば、感激もひとしおだったとお察しする▲逆に、その二つとも欠ければ、お届け物も無用になりかねない。政府は近く、8千万枚の布マスクを介護施設などに配るという。これを国の心尽くしと呼べるかどうか。手際が良いといえるかどうか▲全世帯に配った布マスクと形も素材も同じだという。小さくて鼻まで覆えない。フィルター効果は不織布(ふしょくふ)マスクよりもずっと低いとされる。マスク不足という話も聞かない▲今回の配布の費用は110億円を超える。予算を組んだ以上、後戻りできないというのが本音ならば、国民を思う心は置いてけぼりというほかない▲「夏の小袖」とは、冬の衣服である小袖は夏には要らないということで、時期の外れた不要な物事を指す。いま「小袖」を「マスク」と読み替えても意味は同じだろう。(徹)

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