九州新幹線長崎ルート 環境アセス再回答 あす“期限” 漂う手詰まり感 長崎、着工遅れに危機感 佐賀、拒否の姿勢崩さず

九州新幹線長崎ルート

 九州新幹線長崎ルートの未着工区間(新鳥栖-武雄温泉)の整備に向けた環境影響評価(アセスメント)の手続き入りについて、国土交通省が佐賀県に求めた再回答が31日に“期限”を迎える。同県は拒否する姿勢を崩しておらず、同省や長崎県側には手詰まり感が漂う。長崎県はこのままでは北陸新幹線を含めた財源論議に乗り遅れ、着工が大幅に遅れると危機感を強めている。
 「アセスが必要なフル規格などの可能性を何としても残していただきたい」。中村法道長崎県知事は16日の記者会見でこう強調した。
 国交省は6月、佐賀県に対し、時間短縮効果が大きく新大阪に直通できるフル規格や、フリーゲージトレイン(軌間可変電車、FGT)など五つの整備方式に対応できるアセスの手続き入りを提案。アセスには2~3年かかり、その間に「腰を据えて整備方式を議論できる」として同意を求めたが、同県はフル規格狙いと警戒し2度にわたり拒否した。
 同省は再考を求めているが、来月から同県とアセス手続きの調整に入れなければ、武雄温泉駅で新幹線と在来線を乗り換える「リレー方式」で暫定開業する2022年度の翌23年度に、新鳥栖-武雄温泉間を「切れ目なく」着工できないという。
 一方、北陸新幹線の敦賀-新大阪は19年度に環境アセスに着手し、23年度の着工を目指す。これまで新幹線整備の財源捻出は複数のルートを一括して議論してきた経緯があり、与党の整備新幹線建設推進プロジェクトチーム(PT)で21年度にも始まる財源論議の前に、長崎ルートがアセスに着手していなければ北陸新幹線だけが論議の対象に。そうなれば長崎ルートは当面財源を確保できずにリレー方式が長期固定化し、35年度の全面開業が大幅に遅れる可能性もある。
 長崎県が実現を目指すフル規格で整備すれば、佐賀県側には新たな建設費負担や、JR九州からの並行在来線の経営分離問題が浮上するが、一方で新幹線駅が整備される温泉地の武雄、嬉野両市はフル規格を求めている。こうした状況にも佐賀県側に「条件闘争」の気配はなく、担当部長は「(長崎ルートは)もともとFGTの計画。私たちはフル規格を求めていない」との主張を繰り返す。ただ国交省は新幹線並み速度のFGT開発を既に断念している。
 中村知事は16日の記者会見で、佐賀県の山口祥義知事との面談も含めて打開策を検討する意向を示した。だが複数の関係者は「(国交省と長崎県側の)誰も山口知事と会えない」と口をそろえ、そのかたくなな姿勢の真意をつかみあぐねているのが実情だ。
 今月末を再回答の期限と設定した国交省。ただ長崎県側の関係者からは「長崎ルートは時には“奇策”を講じながらここまで来た経緯がある。期限を過ぎてもまだどうなるか分からない」との声も漏れ聞こえてくる。

九州新幹線長崎ルートと北陸新幹線の想定スケジュール

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