燕・高橋奎二が“一皮むけた”1球で今季初勝利 OB沢村賞右腕が称えた勝負球とは?

ヤクルト・高橋奎二【写真:荒川祐史】

プロ入り最長の8回を投げて無失点と力投、川崎氏「大きな自信になる」

■ヤクルト 6-0 阪神(30日・神宮)

ヤクルトは30日、神宮球場での阪神戦に6-0で完封勝ちした。この日、先発マウンドに上がった5年目左腕の高橋奎二が、プロ入り最長となる8回を投げて3安打6奪三振無失点と好投し、今季1勝目をマーク。6回まで1点のリードだったが、7回に味方打線が相手のミスに乗じて3点を追加すると、8回にも2点を加え、終わってみれば6点差のついた試合となった。

今季4試合目の先発で初勝利を手にした23歳は試合後、お立ち台で「うれしいです」と満面の笑みを浮かべたが、ヤクルトOBで沢村賞投手でもある川崎憲次郎氏はどう見たのか。

「8回に走者を三塁に進めながらも無失点で投げきったことは、高橋投手にとって大きな自信になるはずです。今日経験したことが、今後のピッチングに生きてくると思いますね」

この日、高橋にとって大きなポイントとなったのは、3点リードで迎えた8回だった。味方打線が追加点で援護してくれた直後のマウンドで、内野安打、四球、味方失策などで1死満塁のピンチを迎えた。「球速はそれほど変化はなかったけれど、プロ入り後初めて投げる8回に、少し疲れが見えていましたね」と川崎氏。失点すれば試合の流れは大きく阪神に傾きかねない場面で対峙したのが、1番・陽川尚将だった。カウント2-2と追い込んだ5球目。ここでヤクルトバッテリーには2つの選択肢があったという。

「正攻法でいけば、ここはチェンジアップでしょう。陽川は3回の走者を置いた場面でチェンジアップで遊ゴロに打ち取られています。6回に三振に倒れた時もチェンジアップで空振りしていました。だから、高橋と西田明央の若いバッテリーだったら、正攻法で来る可能性が高いかなと思っていました。でも、実際はその裏をかいて、思い切って150キロの真ん中ストレートを投げてきた。そして、最高の結果とも言える二ゴロ併殺で回を締めくくった。ここで失点せずに、しかもゲッツーで締められたことは大きかったですね」

野球解説者でヤクルトOBの川崎憲次郎氏【写真:編集部】

不運なスタートとなった初回、高橋自身が見せたバント処理と牽制球も「大きかった」

そして、もう一つ「あのプレーも大きかった」と振り返るのが、初回に高橋が見せた軽快なバント処理と牽制球によるアウトだ。立ち上がり、先頭の陽川をセンターフライに打ち取ったかと思えたが、中堅を守る山崎晃大朗がグラブの土手に当てて落球(記録はヒット)。嫌な形で走者を背負ったが、2番・近本光司がマウンド手前に転がした送りバントを高橋自らが捕球して二塁で封殺。さらにその直後、俊足の近本を牽制球で誘い出してアウトに仕留め、失点危機を免れた。

2回に1点の援護をもらった高橋は、先にリズムを掴み始めた阪神先発の藤浪晋太郎につられるかのように調子を上げ、プロ入り最長となる8回を108球で投げきった。「今まで経験したことのない未知の領域を知り、勝ち星がついたことで大きな自信になったでしょう」と話す川崎氏は、近い将来には先発ローテの一角として重要な役割を担うであろう23歳左腕が、さらにステップアップするためのポイントをこう語る。

「どの試合でも大きな山となる場面は3回くらいやってきます。そこを失点せずにいかに自力で押さえられるか。そして、味方のエラーなどイレギュラーな展開を迎えた時や、相手打線が絶好調な時にどんな対応策をとれるか。こういった点が大事になってくると思います。今はまだ1軍経験も浅いので、マウンドでの立ち姿を見ても、まだどっしりと構えてるようには見えませんが、今日のようなピッチングを次回以降も続けられれば、今シーズンが終わる頃には自信や雰囲気を持った姿に変わっている可能性はありますし、そうなっていてほしいですね」

先発投手陣が手薄なヤクルトにとって、高橋の成長は欠かせない。この日のピッチングを次回以降へどう生かせるか。2020年は期待の左腕にとって大きな意味を持つシーズンとなりそうだ。(佐藤直子 / Naoko Sato)

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