『死霊魂』反右派闘争の凄惨な証言

(C)LES FILMS D’ICI-CS PRODUCTIONS-ARTE FRANCE CINeEMA-ADOK FILMS-WANG BING 2018

 『鉄西区』『鳳鳴(フォンミン)―中国の記憶』で山形国際ドキュメンタリー映画祭の大賞に輝く中国の映画作家ワン・ビン。彼には劇映画の監督作が、現時点で一本だけある。毛沢東による“反右派闘争”の悲劇を扱った『無言歌』だ。本作は、あの大傑作を作るための取材で2005年に撮影されたインタビュー映像が基になっている。16年と17年には追加撮影も行われ、3部作合計で8時間半に迫る大長編として結実。ワン・ビンはこれで、山形の3度目となる大賞に加え観客賞まで受賞した。

 反右派闘争とは、1950年代後半、中国共産党の甘言に乗せられて自由に発言した者たちが弾圧された反体制狩りで、約55万人が政治犯として砂漠の収容所に送られたという。ワン・ビンは、わずか10%ともされる生還者たちや多数の骸骨が石ころのように転がる収容所跡地にカメラを向け続ける。生死を分けた理由は何だったのか? 観る前は大傑作の舞台裏に触れられる期待に胸を膨らませていたが、そのあまりにも凄惨で衝撃的な証言の数々に、そんな思いも吹き飛んだ。

 そもそもは本編ではなく取材用に撮ったものなので、画面の強度では『鉄西区』や『鳳鳴』に見劣りするものの、映し出される被写体の喚起力は圧倒的で、他の追随を許さない。中国は現在、香港情勢で国際的な非難を浴びているが、歴史の闇を暴く本作も公開はできない。★★★★★(外山真也)

監督・撮影:ワン・ビン

全国順次公開

© 一般社団法人共同通信社