吉村知事推奨の「ポビドンヨードのうがい薬」、本当に効果ある? 使いすぎで健康悪化の可能性も

大阪府の吉村洋文知事が4日、はびきの医療センターが実施した研究を元に「ポビドンヨードを含むうがい薬の使用で、新型コロナ陽性患者を減らせる可能性がある」と発言し各方面に波紋が広がっている。会見が報道された直後から、メルカリでポビドンヨードを含む「イソジンうがい薬」が高騰したり、メーカーのWebサイトにアクセスが殺到するなど、悪影響が広がりかねない状況だ。

吉村知事「嘘みたいなほんとの話」

この日行われた会見の冒頭で、吉村知事は「嘘みたいなほんとの話をするが、うがい薬でうがいをすると新型コロナウイルスの陽性者が減っていくのではないかという研究結果が出た」と語り、府が用意した軽症者向けの療養施設の患者41名を対象に、大阪はびきの医療センターが実施した臨床研究の結果を報告した。

大阪はびきの医療センターの発表資料より

研究内容は、殺菌効果を持ち、かつこれまでも幅広く処方されている殺菌成分「ポビドンヨード」を含むうがい薬で1日4回うがいしてもらった群と、うがいしなかった群に分け、それぞれその後のPCR検査の結果を比べたもの。すると、なんとうがいした群は陽性率が21%だったのに比べ、しなかった群は56%余りと、明らかな差が出たというのだ。

吉村知事はこの結果をもとに、研究をさらに進めるため1000人規模の臨床研究を行うと発表。会見に同席した研究担当者、大阪はびきの医療センターの松山晃文 次世代創薬創生センター長も「唾液のウイルスを減らせれば、家庭内感染を減らす効果があるのではと期待している。大規模な研究で確かめたい」と意欲を語った。

知事呼びかけるもさっそくメルカリで高騰

身近なうがい薬で感染拡大を防げるかもしれないという突然の発表に、すぐに大きな反響が出た。会見で吉村知事は、うがい薬でのうがいを励行すると同時に、影響を見越し「くれぐれも、うがい薬を買い占めたりしないでください」と呼びかけた。しかし果たして、会見直後からオークションアプリ「メルカリ」では「イソジンうがい薬」が大量に出品され、値段も市場価格の数倍と高騰している。

編集部が2020年8月4日20時すぎに確認したメルカリの画面

本当に感染抑止の効果があると言えるのか

大阪府の今回の発表は非常にインパクトを与えるものだったが、果たして本当にポビドンヨードのうがい薬を励行するだけで、感染拡大を抑止できると言えるのか。会見でも関係者すべてが言っていたように、今回の研究成果はわずか41人を対象としたものであり、本来ならばもっと大きな母集団での比較試験を経てから発表するべき内容だ。今回の結果のみで、市民にうがいを励行するとまで語ったのは、さすがに勇み足との誹りを逃れられないのではないか。

実際、今回の研究で示された結果をすべて認めるとしても、殺菌できている可能性があるのは、うがいした口腔、咽頭だけである。新型コロナウイルスは重症化するにつれ口腔、咽頭だけでなく肺や血管へも広がっていくことは広く知られている事実であり、そこから考えれば、一部の部位で殺菌ができたからといってその人の感染力が弱まっているかどうか、断言できるとはとても言えない。

使いすぎると喉を痛め、甲状腺の機能低下すら引き起こす可能性

イソジン ガーグル液7% 添付文書

広く処方され、ドラッグストアでも売られている成分のメジャーなうがい薬だといっても、副作用が皆無というわけではなく、守らなければならない用法・容量がある。今回発表された研究でも「1日4回」とされているし、処方薬に必ず添付される説明文書(いわゆる添付文書)にも「用時15~30倍( 2 ~ 4 mLを約60mLの水)に希釈し、 1 日数回含嗽(うがい)する」と明記されている。したがって、心配のあまり人と会うたびにうがいするなどは決してしないほうがいいだろう。

また非常にレアなケースだが、風邪気味だったとある患者が様々なうがい薬を使いすぎて体調不良に陥り受診したところ、甲状腺機能低下を起こしていたという症例報告も上がっている。

JIM 17巻11号 (2007年11月):特集 ストップ・ザ・医原性疾患

この症例報告によると、年に何回もかぜをひくからと自らイソジン®︎うがい薬やのどぬーる®︎スプレーを頻用していたところ、咽頭痛と鼻水を主訴に内科外来を受診。診察した医師は甲状腺が軽度に腫大していたことを見つけ、採血検査したところ甲状腺機能低下症だったという。そこで、うがい薬の使い過ぎによるヨード過剰摂取が原因と推定し、患者にヨード含有うがい薬の使用を禁止。すると3カ月後には甲状腺機能はほぼ正常化したとのことである。

ポビドンヨードの主成分である「ヨウ素」は殺菌能力で知られているが、同時に甲状腺に悪影響を与えることも知られている。安易に考えて使いすぎると、思った以上の体調悪化をもたらす可能性がある。

会見で研究への意欲を語った松山センター長でさえも「うがいをしたあと、1時間程度でウイルスの量が再び増えるケースもある。うがい薬を使って、何回もうがいをすると喉を痛める可能性もあるので注意が必要」と語っている。情報の一部だけで判断せず、全体を確認してからの行動をおすすめしたい。

なお吉村知事は、会見後の賛否両論に対しTwitterで以下のようにコメントしている。

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