「孤」の人の言葉

 孤独の「孤」とは、独りぼっちのさまを指すが、漢和辞典には別の意味もある。中国では古く、王侯が一人称に用いたという。「私は…」と語る場面で「孤は…」と言ったらしい▲時として、独りで重い政治決断をする。良いも悪いも、評価は一身に受け止める。ひと声で社会を動かすような政治家が「私」を「孤」と呼んだというのは、その孤独な心の内がいくらか知れるようで、妙に合点がいく▲いま「孤」の立場にあるこの国のトップはどうだろう。独りで重い決断をして、強い言葉を発するどころか、国民から離れた所に、独りぽつんといるように見える。安倍晋三首相はもう1カ月半、会見らしい会見をしていない▲感染が広がる中で、移動を促す「Go To トラベル」に踏み切った。そこへお盆の帰省の時期が迫る。菅義偉官房長官は、県をまたぐ移動に一律には自粛を求めないと言い、西村康稔経済再生担当相は、帰省について「慎重に」と言う▲閣僚の発言が食い違い、戸惑う人は数多い。“統一見解”を語るとすれば、ただ一人しかいないのに、その人物はだんまりを決め込んでいる▲きょう語らなければ、あすの「広島原爆の日」の式典後、やっと会見するのだろうか。遅まきながら、責任も評価もわが身一つに負う「孤」の言葉がそろそろ要る。(徹)

 


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