育児中、突然受けることになったコロナ抗原検査。陽性だと子供はどうなるのか

「陽性が出たら、そのまま10日間ほど入院ですが大丈夫ですか」

0歳児を育てながら職場復職したばかり私は、7月下旬に風邪をこじらせ、新型コロナウイルスの抗原検査を受けました。改めて思い知らされたのは、陽性が出た瞬間から家族からも社会からも隔離され、日常生活が送れなくなる病気であるということ。症状への不安よりも、家族や周囲、仕事に一体どんな影響があるのかという恐怖が襲ってきました。


突然、保育園が休園

7月中旬、ある平日の午後8時過ぎ。子供を寝かせ、スマホのメールボックスをなんとなく開いた時、届いたメールに思わず声が出ました。タイトルは「〇〇保育園児童の新型コロナウイルス感染症患者の発生について」。住んでいる自治体から、登録した保育園の保護者に送られる一斉送信メールでした。

メールには、園児に陽性反応が出たために、翌日から週末までを休園とすること、保健所が濃厚接触者を特定することなどが書かれていました。

翌朝、慌てて保育園に電話しました。「保育園再開の見通しは?」「もし子供が濃厚接触者なら、しばらく保育園には行けないんですか?」。聞きたいことは山ほどありましたが、園側の回答は「何も答えられない」。どのクラスで発生したかについてすら、「個人情報と人権に配慮」という理由で回答はなく、もどかしさが残りました。

結局、その日の午後、「連絡がなかった家庭は、濃厚接触者の対象ではない」とのメールが届き、安堵しました。翌日には保育園の再開日についても連絡がありました。

なぜか親が発熱

一週間後、なぜか私が発熱し、激しい咳が止まらなくなりました。実はその少し前、私は水疱瘡のウイルスが原因の帯状疱疹を発症していました。激痛を伴う発疹が出て、抗体のない子供に水疱瘡を発症させる可能性がある疾病です。

そのため、子供のお風呂や保育園は、大阪から来てくれた母が担ってくれていました。私自身はリモートワークでほぼ家から出ていません。だから、だたの風邪と思っていましたが、息も苦しくなってきました。翌日に、近所の医院に診察を受けたいと電話しました。

問診した医師は、「家で待機していてください。他の患者さんがいなくなったら電話をするから、すぐに来て」と、厳しい口調でした。医院のお昼休みに、レントゲン室で診察を受けました。医師はフェイスシールド、マスク、防護服、手袋と完全防備で、できるだけ私から距離をとって話をします。

「はずれかもしれないけれど、これだけ陽性者が増えているから検査を受けましょう。保健所に登録します。いいですね」と説得するように言われました。

子どもが陰性でも一緒に入院?

まもなく保健所から電話があり、1時間半後に検査できる大学病院が見つかったとのこと。バスと電車を乗り継いで約50分の場所です。「できるだけ公共交通機関は控えてください」と言われましたが、自家用車はありません。

保健所職員に聞いても、「あくまでお願いベースです」「タクシーの窓開けて換気しながら行かれる方もいます」などと、曖昧な返事。迷いつつ、タクシーで向かいました。

陽性だった場合、子どもの世話はどうすればいいのでしょうか。保健所の回答は、「基本的に親族などに預かってもらうことになります。一緒に入院できる病室もありますが、数が限られます。子どもが陰性だとうつしてしまう可能性もあります」とのこと。調べてみると、預かってくれる人がいない場合は、児童相談所が一時保護したり、ホテルなどで預かってたりする自治体もあるそうです。

しかし、どの選択肢も選びづらいものでした。頭を抱えながら病院に向かいました。

もう検査を受けずに逃げたい

大学病院の敷地内に着いたら、指定の電話番号に電話をかけるように指示されていました。病院の裏口に誘導され、待機していた看護師が「こんにちは」と迎えてくれました。緊張が少し緩みました。

小さな部屋に通され、ビニールシートで囲った畳一畳ほどの空間に置かれた椅子に座りました。保険証をシートの隙間からそっと差し出し、体温と血中酸素濃度を測り、ビニールの外にいる医師から問診を受けます。まるで自分が病原体か珍獣になった気分です。

このようなビニールシート越しに診察を受けた

医師からは、「陽性となったらそのまま入院ですが、大丈夫ですか。症状がすぐに消えれば、隔離は10日ほどです」と確認されました。

家では0歳の子が待っています。全く大丈夫ではありません。今はたまたま、上京している母が面倒を見てくれているけど、10日間も頼めるのか。10日間も親と離れ離れで、寂しくて泣きはしないだろうか。

不安が頭の中をぐるぐる周り、なかなか返事ができません、「自宅療養はできませんか」と声を絞りだして聞いてみたものの、「うーん、保健所の判断ですね」とはっきりした返事はありません。

陽性が出た後、もし一旦家に帰れるとしても、公共交通機関を使うことは許されません。「誰かに迎えに来てもらえますか」と聞かれましたが、平日の日中、自家用車で来てくれる知人は思い当たりません。「もし陽性が出たら大変なことになる。検査を受けずに逃げ帰ろうか…」という考えが一瞬、頭をよぎりました。

PCR検査ではなく抗原検査とは

マスクにガウン、ゴーグル、手袋を身に着けた医師が、ビニールシートの中に入ってきました。長い綿棒を私の鼻の穴に入れて、粘膜を採取します。大変なリスクのある仕事で、検査を受けながらも頭が下がる思いでした。

私が受けた「抗原検査」は、鼻の粘膜や唾液を採取し、新型コロナウイルスのタンパク質から感染を調べるもの。ウイルスの遺伝子を調べるPCR検査に比べると、多くのウイルス量が必要ですが、私のように症状が出ている状態では、検査精度は変わらないということでした。

抗原検査は、およそ30分で結果が出ます。一方で、PCR検査の場合、結果が通知されるまで数日かかる場合があります。その間は陽性疑いとなり、同居家族も含め、基本的に外出はできません。抗原検査のメリットは大きいと感じました。

書類の受け渡しなどはこの部分から行う

## 「どうしよう」という言葉しか出ない30分間

検体の採取が終わると、「トイレに行くときは、周りを触らないで」と、部屋に一人取り残されました。なぜか電気も消えてしまい、薄暗い部屋の中で、「陽性だったらどうしよう」という思いが駆け巡ります。

私が陽性だったら、きっと子供にも感染しているでしょう。0歳児を危険にさらしてしまったことに胸が押しつぶされそうになります。もし重症化してしまったら、もし保育園の他の園児にもうつしていたら…。

それに、在宅勤務とはいえ、社員にコロナ陽性者が出たことで、会社にどんな影響があるだろうか。10日も入院したら仕事はどうなるのか。

患者が特定され、差別的な扱いを受けたなどのニュースも見聞きします。私も子供も、職場や保育園でそういう扱いを受けるのだろうかと恐ろしくなりました。

幸いにも陰性

数十分後、部屋に戻った医師は、パソコン画面に向かいながら、「陰性です。安心してください」と伝えてくれました。よかった、本当によかった。明日からもいつも通りに暮らせる。安堵の気持ちから涙が出そうになりました。

「でも、検査は絶対ではないし、コロナじゃなければ他の病気の可能性もありますから、気を付けてくださいね」という優しい言葉がもかけてもらいました。

お会計は2000円弱。思っていたより安価でした。看護師からも「少しは安心ですね。お子さんがいらしたら心配でしたよね」と言われ、心が軽くなって病院を後にしました。

コロナ患者への差別も懸念

都内では今、再び新型コロナウイルス陽性者が激増しています。患者は、身体的なつらさだけでなく、家族と離れて隔離生活を過ごさないといけないという大きな負担を強いられます。小さな子どもや介護が必要な高齢者を抱えている家庭では、大きな問題です。

それだけでなく、インターネット上には「陰性になったのに入店を拒否された」「暴言を吐かれた」などという、陽性者が嫌がらせを受けたという書き込みが後を立ちません。感染症の歴史の中で繰り返されてきたこととはいえ、患者への差別や嫌がらせはあってはならないことです。

どんなに注意をしても、誰もが感染する可能性のあるウイルスです。一人ひとりが冷静に対応するとともに、患者が安心して治療に専念できる体制を整えられ、このウイルスを克服できる社会になってほしい、と強く思いました。

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