読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。
今回の相談者は、37歳自営業の女性。現在、つみたてNISAとiDeCoと国民年金に付加保険料をつけて老後資金を貯めていますが、長生きした時に枯渇しないか不安とのこと。FPの秋山芳生氏がお答えします。
個人事業主として仕事をしているため年金の支給見込み額が少なく、各種公的制度を活用して資産形成を目指しています。
▽現在の積み立て金額
(1)つみたてNISA(5万円/月)※全世界インデックス投信
(2)iDeCo(3.3万円/月)※国内外のインデックス投信
(3)国民年金の付加保険料
現在のペースを保てればそれなりの金額にはなりますが、(1)と(2)は取り崩していくことになるので、思いのほか長生きしたときに資金が枯渇しないか不安です。(3)は2年で元が取れるコスパのよさにひかれて加入しましたが、受取額の増加分は微々たるものなので、国民年金基金の終身プランに変更したほうがいいのか悩んでいます。手元の現金がそれなりに貯まったので、現在の収入を維持できている間は(2)+(3)+国民年金基金の上限=6.8万円まで拠出したいと考えているのですが、無理はないでしょうか。また、6.8万円のうち、どういったバランスで設計するのがよいか、アドバイスをお願いしたいです。
【相談者プロフィール】
女性、37歳、未婚
職業:自営業
住居の形態:賃貸
毎月の世帯の手取り金額:50万円
年間の世帯の手取りボーナス額:0
毎月の世帯の支出の目安:24万円
【毎月の支出の内訳】
住居費:5万円
食費:1万円
水道光熱費:1万円
教育費:0.5万円
保険料:0.4万円(生命保険・医療保険・がん保険・個人賠償責任保険 ※すべて掛け捨て)
通信費:0.5万円
車両費:0
お小遣い:0
その他:15.6万円(日用品・娯楽・ペット・住民税・国民健康保険料・国民年金保険料など)
【資産状況】
毎月の貯蓄額:26万円
現在の貯蓄総額:500万円
現在の投資総額:940万円(おおよその内訳…国内株式:50%/NISA&iDeCoのインデックス投資信託:50%)
現在の負債総額:64万円(無利子の奨学金)
現在の加入条件が続いた場合の公的年金:7.5万円/月
秋山: ご相談いただきありがとうございます。ファイナンシャルプランナ−の秋山芳生です。現在自営業で、資産形成と老後に必要な資産をどのように作るべきかという相談ですね。
自営業の老後は各種公的制度の積極活用を
まず現状の状態を確認していきたいと思います。
現在の積み立てが、「つみたてNISA(5万円/月)※全世界経済インデックスファンド」とのことでが、このつみたてNISAの制度は年に40万円まで非課税で運用にまわすことができる制度です。40万円を12カ月で割ると、1カ月あたり3万3333円となりますので、5万円を積み立て続けることはできません。今年の5月からつみたてNISAを始め、毎月の積み立てを12月までの8カ月間で、毎月5万円で40万円になる計算というふうに理解することにしますね。
老後の不安を解消するために、各種公的制度を活用することは非常に良いことだと思います。また、自営業でいらっしゃるので、老後の年金は基礎年金が中心になりますね。現在の加入条件が続いた場合の公的年金が7.5万円/月とのことですので、通常基礎年金は満額で約6.5万円/月ですから、差分は付加保険料200円×契約年数分と、一時期会社員をされていて厚生年金が少しあるのかもしれませんね。
長生き傾向のある女性は資産寿命の継続が重要に
通常は個人事業主の方や自営業の方は厚生年金がないので、自分で老後の計画を立てなければなりません。特に女性は老後が長くなる可能性があるので資産寿命をどのように継続させるかが大きなテーマになってきますね。
2020年7月末に厚生労働省が発表した「簡易生命表」によると、日本の2019年の平均寿命は、女性が87.45歳、男性が81.41歳でいずれも過去最高を更新しています。平均寿命が伸びている理由は3大疾病(がん、心疾患、脳血管疾患)による死亡率が下がっているからと言われており、今後の医療技術の発展によってさらに伸びることが予測されています。
平均寿命は、その年に生まれた新生児の寿命を表しているものですので、すでに37歳になられているご相談者さまは、0歳〜37歳の間に死亡するリスクを乗り越えているぶん平均寿命より長生きになる可能性があります。また、一説に女性の死亡の最頻年齢は91歳〜93歳ともいわれ、女性の26%は95歳以上まで長生きなされています。
また、自営業でいらっしゃるので定年は仕事の事業性と、ご自身の健康がきめることになると思います。日本の健康寿命は74歳と言われていますが、「そこまでは働きたくないけど65歳から70歳くらいまでは頑張る」と仮にしても老後は20年以上ありそうです。
こうなると、長く生きることを前提に老後破綻のリスクを考えるとよさそうですね。
自営業者が利用できる制度にはどんなものがある?
自営業の方や個人事業主の方は、厚生年金に加入できない分、さまざまな税制優遇制度があります。
終身保険である「国民年金基金」は、厚生年金保険の代わりになるものです。退職金の積み立てに相当するのが「小規模企業共済」になります。また、すでにご加入済みの付加保険料は、国民年金の定額保険料に400円上乗せして払うことで、200円×契約年数分が年金に上乗せされるので、実質年金を受け取ってから2年で元が取れるお得な制度ですね。そして、掛け金が所得控除され、運用益にも税金がかからない個人型確定拠出年金(iDeCo)があります。
どちらの制度も掛け金に対して所得控除が受けられます。所得控除の最大化ということでいえば、すべての制度を利用していくことができます。国民年金基金とiDeCoの掛け金は合計が月に6万8000円となりますが、小規模企業共済はまた別に7万円を掛けることができ、所得控除が受けられます。現在のご年収が600万円ほどあるので、所得税・住民税の控除額もそれなりに受けられると考えられますね。
iDeCoと国民年金基金どちらに比重を置くべき?
各制度の詳しい内容については、別の記事におまかせするとして「じゃあどれを選ぶのが良いか」ということの視点でお話をしていきたいと思います。
国民年金基金とiDeCoを同額同条件で比較をしようと思いますが、国民年金基金が口数の増減により掛け金が決まるため、ぴったり満額の6万8000円に計算上合わせることができません。iDeCoは1000円単位になるので、同額で比べられる5万4000円を掛け金として採用して比較をしてみます。
仮に、iDeCoで5万4000円を60歳になるまでの22年間運用し、65歳から受け取った場合と、国民年金基金に終身年金B型で計14口の5万4000円の場合、どちらが得になるでしょうか。
何歳で差がでるか?
iDeCoで5万4000円を60歳になるまで積み立て、仮に3%で運用、65歳で受取の場合は、積立元本が1490万4000円になり、運用益が980万8338円で、合計が2471万2338円になります。運用が仮に1.5%だった場合は、積立元本は同額ですが、運用益が423万1639円となり合計が1913万5639円となります。
国民年金基金のシミュレーションによると、今からB型で始めた場合は、65歳からの受取額は、99万8400円/年となります。仮に87歳の平均寿命まで生きる場合22年間で2196万4800円となります。iDeCoが1.5%の平均利回りだった場合は、85歳で国民年金基金のほうが上回ることになります。また、iDeCoが3%で運用できていた場合の2471万2338円なので、国民年金基金B型の場合は90歳になって2496万円となり、iDeCoを超えます。
さらに生きて95歳まで生きている場合は2995万2000円になり、iDeCoが1.5%の平均利回りだったときとくらべ1000万円の差が出ます。
具体的な課税所得がわからないのでアバウトになりますが、どちらもさらに年間で24万円ほどの節税は受けられると思いますので、60歳までの22年間で500万円以上の節税が期待できます。
iDeCoと国民年金基金のメリットとデメリット
iDeCoは運用を自分で指示しなければならないことと、運用益がどうなるかは確定していないのでボラティリティ(価格の変動性)があります。一方、国民年金基金は、早くに亡くなってしまった場合にもらえない額が出てくるというデメリットもあります(国民年金基金のA型を選ぶことで、最低保障額を得ることもできるが、B型に比べて1年あたりの年金額は減る)。
ですので、なにごともバランスが重要ということになります。iDeCoで平均利回り3%以上の運用ができると思い、90歳まで生きないと思えばiDeCoを中心にバランスをとるほうが良いでしょう。逆にiDeCoで平均利回り1.5%ほどを想定している場合は、85歳以上で国民年金基金が有利になりますので、国民年金基金に比重をかけていく方が有利ということになります。
満額の6万8000円を拠出できるようであれば、上記の視点でバランスをとっていただくのがよいのではないでしょうか。
参考までですが、国民年金基金に加入した場合は、現在入っている付加保険料に加入ができなくなります。考え方としては国民年基金にすでに内包されているという考え方になるようですので、ご認識しておいていただければと思います。
現金預金と掛け金のバランスはライフプランから決めて
所得控除の各種制度を使うと、60歳以上にならないと現金として受け取れないなど一定の条件があり、「流動性」が下がります。
現在の家計を見る限り、6万8000円は無理なく拠出できると思いますし、現金貯蓄もあるので、さらに小規模企業共済も含めて所得控除額を増やしていくことは十分に考えられます。ですが、現金貯蓄がいつまでにいくら必要かを決めるのは、ご自身のライフプランをしっかりと考えてからのほうが良いと思います。たとえば住宅を購入したくなったときなどは大きくバランスが変わってくると思います。掛け金を決める際は今後の人生設計とお金の計画をしっかりと立ててからが良いでしょう。
以上、参考になれば幸いです。