今までと違う動きを見せたとき、子どもたちは目を輝かせる 小学校のプログラミング授業の要「Cutlery Apps」

前回、小学校のプログラミングを全部IchigoJamBASICで貫く、小金井市立前原小学校の授業体系の全容を紹介しました。今回はその体系の要であるCutlery Appsについて、その魅力についてお話しします。

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前原小のプログラミング授業体系の要ーCutlery Apps

筆者はCutlery Appsが、子どもたちをテキスト言語に誘う最高の教材となることを前原小での授業実践を通して確信したからこそ、小学校のプログラミング授業を全部IchigoJamBASICで体系化しようと思い立ったのです。ではCutlery Appsがどういったものなのか、それをまずひもといていきましょう。

ビジュアルなプログラミング言語の代表は、小学校のプログラミングにおいて、もはやデファクトスタンダードになった感のあるScratchです。ビジュアルプログラミング言語といえば、多くの教員がScratchのようなブロック型の言語を連想するほどです。この他にもビジュアルな言語には、フロータイプのものやViscuitのような独自の様式でプログラムを記述するものもあります。

(参照:「知りたい!プログラミングツール図鑑」ビジュアルプログラミングってなに?〜3タイプ分類でわかるScratchやViscuitの違い – 知りたい!

ビジュアルプログラミングってなに?〜3タイプ分類でわかるScratchやViscuitの違い - 知りたい!プログラミングツール図鑑

しかしIchigoJamBASICをビジュアルな様式で記述するものなどあるのでしょうか。実は筆者も初めてIchigoJamBASICを知ったとき、それがテキストでプログラムを記述する言語であるために、小学生の発達段階を考えれば、導入のハードルは高いと感じていました。

2016年の冬に福井市で開催された「こどもプログラミングサミット」に招待され、IchigoJamの開発者である福野泰介氏(株式会社jigjp取締役会長)やIchigoJamによるプログラミングを普及啓発するPCN(プログラミングクラブネットワーク)を主宰する松田(まった)優一氏(株式会社ナチュラルスタイル代表取締役)などと知り合い、IchigoJamに魅力と可能性を感じながらも、その導入を躊躇していました。

Cutlery Apps 誕生 !!

しかしそんな筆者に、転機が訪れたのです。翌年の夏に、松田(まった)優一氏が当時筆者が校長職にあった前原小学校を訪ねてきて、「校長、できた!」と言ってCutlery Appsを紹介してくれたのです。そのときのことは、今でも鮮明に覚えています。

Cutlery Appsは日鉄日立システムエンジニアリングが作成したカトラリーカード(テキストプログラミングを支援するアンプラグドなビジュアルカード)を基に、松田(まった)優一氏が開発したアプリケーションです。

ここにIchigoJamBASICをビジュアルな様式で記述する言語が新しく誕生したのです。IchigoJamBASICのビジュアル言語としては、筆者が調べたところでは、大阪工業大学がブロックタイプのプログラミング環境を開発したことがニュース(2017/11)で報じられ、2018年の3月には情報処理学会の研究報告として発表されています。(情報学広場

情報学広場:情報処理学会電子図書館

以下がCutlery Appsのアプリ(アイコン)とそれを開いた時の画面です。

Cutlery Appsのアプリ(アイコン)
プログラミング画面。このアプリは、下のサイトから無料でダウンロードできる

CutleryApps

Cutlery Appsの使い方

このアプリの使い方は、極めてシンプルです。画面左側に配置された3つのタブ(「きほん」「パプリカ」「いろいろ」)に収められた複数のカードから一枚を選択して右側の10、20、30などと番号が書かれたキャンパス部分に10番から順番にドラッグ&ドロップして並べるだけで、簡単にプログラムを記述できるのです。

今の子どもたちは、就学前からすでにタブレットに触れていて、ドラッグ&ドロップはお手のものです。1年生でも授業の最初にこのAppsの使い方を説明すれば、直ぐにカードを並べはじめます。

最初の操作では当然戸惑いもありますが、子どもたちは自ら試行錯誤を繰り返し、またグループの友だちと確認し合ったり、教えあったりしながら楽しくプログラミングを進めていきます。まさに新学習指導要領が目指す学び合いの姿が、教室のあちらこちらで垣間見られるのです。

絵カードによるプログラミング画面
カード右下をタップして裏返した画面

上記はカムロボットを10「前に」20「3秒進めて」30「止めて」40「1秒待って」、次に50「後ろに」というプログラムとなっています。2枚目の画面は並べたカードの右下をタップして裏返しにした画面で、テキストで IchigoJamBASIC言語が記述されていることがわかります。プログラムは1枚目とまったく同じです。この対応によって、子どもたちはテキストで書かれたプログラムを絵のイメージで理解することができるのです。

3年生がCutlery Appsからテキストプログラミングに移行しはじめたころには、子どもたちはこのテキストが表示されたタブレットを横に置いて、一つ一つを確認しながらタイピングしていました。

IchigoJamとIchigoDake

IchigoJamとIchigoDake

さて前原小では、Cutlery Appsやテキストで入力したIchigoJamBASICのプログラムを実行する際には、IchigoDakeというコンピュータを活用しました。

上の写真に2枚の基板が写っていますが、左がIchigoJamです。そして右側の小さな基板がIchigoJamのコア部分を切り出した、安価で丈夫なIchigoDakeです。前原小の「全部IchigoJamBASIC」のプログラミング授業は、右側のIchigoDakeを活用して行いました。

下の写真のようにAndroidのタブレットにケーブルを接続し変換モジュールを介して、Lチカ基板に接続すれば4色のLチカプログラミングが簡単にできます。また、ここに前原2号というIchigoDakeを差し込む基板を用意すれば、タブレットで作成したプログラムを転送でき、IchigoDakeを取り外してカムロボットに差し込んでプログラムを実行できます。

変換モジュールでタブレットと接続したM01(Lチカ基板)
変換モジュールでタブレットと接続したM01(Lチカ基板)
M01の後ろにはIchigoDakeが差し込んである
前原2号(赤色の基板)にIchigoDakeを差し込んでプログラムを転送している様子

Lチカプログラミングは、タブレットに(1)接続コード(2)変換モジュール(3)M01(Lチカ基板)(4)IchigoDakeのセットで実施できます。カムロボのプログラミングも(1)接続コード(2)変換モジュール(3)前原2号(IchigoDakeを差し込む基板)(4)IchigoDake(5)カムロボットのセットで実施できます。

すべてが安価で、タブレットを除けばLチカプログラミングは1セット約3,000円、ロボットプログラミングはタブレットとロボットを除けばこれも約3,000円で準備でき、予算が限られる学校でも消耗品費として執行できることが何よりもありがたいことでした。

そしてロボットは1台12,000円程度ですが、学校で授業をする際には、たとえば40人規模の学級であっても、5台程度準備して、一人一人がプログラミングしたそのプログラムを試す共有のロボットとすれば、充実した学習活動を展開することができます。(活動班に1台を割り充てる必要はないと考えます)

またこれら機材は、学校だけでなく各個人(家庭)でも購入できますので、興味があれば松田(まった)優一氏の経営するナチュラルスタイルのHP(IchigoDake)を閲覧してみてください。

Kids small PC IchigoDake

Cutlery Appsでプログラミングするメリット

Cutlery Appsの最大の特徴は、条件分岐や変数を扱うカードがないことです。これが子どもたちをしてテキスト言語へ誘う最高のトリガーであり、このカードでプログラミングを行うメリットです。

多くのビジュアル言語は、テキストプログラミングで実行できるのと同じような、例えば条件分岐や変数などを扱えるようブロックなどを用意していますが、Cutlery Appsはそうではありません。Cutlery Appsでできるのは、プログラミングの基本構造のうち順次実行と繰り返しです。だから低学年の子どもたちにとっては扱いも容易ですし、その体験を踏まえてさらなる表現をしてみたくなるのです。ここにこそ、子どもたちをテキストに誘う最高の動機を醸成することができるのです。

筆者は3年生になってローマ字学習がはじまる時期にテキストへ移行することが、現状ではいいタイミングであると考えています。そのとき、指導者があらかじめテキストでロボットをセンサー制御するプログラムを用意しておき、子どもたちに師範します。

子どもたちはこれまでCutlery Appsでプログラミングをしてきてロボットを動かすことを楽しんできました。そこにセンサー制御で動くロボットの存在を目の当たりにすれば、一瞬「えっ?」「何で?」

考えもしなかった動きをロボットにさせるプログラムがあることがわかったとき、子どもたちの多くは一目散に机に戻ってCutleryのカードを探しはじめます。

「先生! 手をかざしたら止まる、というカードはどこにありますか?」と直ぐに質問が飛んできます。「見つからない?」とちょっと焦らすような返答をしながら、「実は、手をかざしたら止まる、というカードはないんだ。テキストでプログラムしなければならないのだけれど、打てる?」と挑発すれば、多くの子どもたちは「打てる!」

ここでテキストのプログラムを提示すれば、テキストプログラミングが子どもたちにとって切実性と必然性をもってスタートするのです。(ここの展開については、この連載でも詳しく紹介する予定でいます)

Cutlery Appsは筆者にとって、プログラミング教育の在り方を決定付けるアプリケーションとなったのです。次回は、このアプリケーションで行った一番はじめのLチカ授業の顛末とM01(4色のLチカ基板)の開発秘話、そしてLチカプログラミングの広がりをお話ししようと考えています。Cutlery Appsは、まさに前原小の「全部IchigoJamBASIC」の要なのです。

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