やっと2人は家族だと証明できる 交際12年の同性カップル、パートナーシップ宣誓書を提出へ 麻智とテレサの明日(上)

麻智とテレサの明日 京に暮らす同性カップル

 京都市が9月1日、同性カップルなどの関係を公的に認める「パートナーシップ宣誓制度」を始める。宣誓書を提出すると決めた女性同士のカップルが京都市内にいる。愛の対象が同性に向かうことに葛藤し、社会の偏見にもがき苦しみながら、人生のパートナーとして支え合ってきた2人の軌跡をたどる。

■2人は、女性として女性を愛している

 格子状の門扉をくぐり、細い路地を進む。下京区内の築120年を超える町家に、坂田麻智さん(41)とテレサ・スティーガーさん(37)は暮らしている。2人は女性として女性を愛する。共通の友人を介して知り合い、2008年に交際を始めた。この町家を購入して7年。時間のある方が料理をして、気になった方が掃除をする。性別にとらわれた役割分担はない。2人と愛犬1匹で心地よい生活を築いてきた。

■「彼氏いるの?」の質問に苦しんだ麻智さん

 麻智さんが初めて女性と付き合ったのは、地元の愛媛県で高校に通っていたとき。相手は同じ部活の同級生。手をつないで登下校した。好きな人と関係を結べた喜びでいっぱいだった。

 ただ、どこかで同性愛を否定していた。「その子だから好き。私はレズビアンじゃない」。性的マイノリティーの情報が乏しい時代。テレビドラマは同性愛を「異常な愛」として描いていた。

 進学した米国の大学では、性的マイノリティーは珍しい存在ではなかった。麻智さんも自分の愛が向かう方向について悩むことはなく、差別されることもなかった。

 しかし、帰国して電機メーカーに勤めると、男女のペアを前提にした社会の制度や価値観に苦しんだ。「彼氏いるの?」。職場の人がふと発する言葉に戸惑う。交際相手を男性と偽ることに心苦しさを覚えた。

■男性と結婚後、女性が好きだと気付いたテレサさん

 テレサさんは出身地の米国で男性と結婚し、2006年に夫と来日したが、ほどなく離婚。独りになって初めて自分と正直に向き合い、女性が好きだと気付いた。

 振り返れば小学生のときに「かっこいい」と憧れたのは女性。でも深く考えることを避け、無意識に自身を従来の家族像に押し込めていた。ようやく本当の自分に出会い、私らしく生きる道を見つけた、と自信が付いた。
 

■米国で結婚、愛し合う2人の関係はこんな形

 2人の自宅に、大きな写真立てが飾られている。澄み切った青空の下、ウエディングドレスに身を包み、唇を重ねる麻智さんとテレサさんが写る。全米で同性婚が認められた2015年、テレサさんのふるさと、オレゴン州で結婚した。「あなただけを心から愛することを誓います」。家族や友人に見守られ、声を合わせた。交際を深め、お互いが欠くことのできない存在になった。

 付き合ってしばらくしたころ、麻智さんは仕事が激務になり、終電で帰る日々が続いた。仕事ができていないと周りから責められているように感じ、9カ月の休職を余儀なくされた。仕事ができない上に性的マイノリティーって、生きてる価値あるの…。考えないようにしていた負い目が噴き出した。

 「自分を責めるんじゃなくて、自分は自分でいいよ」。ありのままの麻智さんを受け止め、そっと寄り添ってくれるテレサさんの存在に、麻智さんは救われた。社会の役に立たなければいけないという考えにとらわれていた。「本当にね、テレちゃんの支えがあったから、いまがあるんだろうな」

 無理せず、我慢せずにいられる関係。それはテレサさんにとっても何物にも代え難いものになった。

■米国の結婚証明書、日本では効力を持たなかった

 2人の絆を示す、米国で手に入れた結婚証明書。しかし、日本では効力を持たない。10年以上人生を共にしても「家族を証明するもの、何もないんですよ」。

 新居を探して不動産業者を回ったとき。レストランで食事をしたとき。2人の間柄を聞かれて「パートナーです」と答えると、「えっ」という表情をされる。いろいろ説明しなきゃと思うとおっくうになり、「ルームメートです」と言い直す。そうさせてしまう社会にあきらめが募る。

 仕事を休んで迎える9月1日。市のパートナーシップ制度の宣誓書受領証を取得し、やっと互いが「人生のパートナー」であることが公的に証明できる。

 【パートナーシップ制度とは】 

 法律上婚姻できない同性カップルなどを、自治体が条例や要綱でカップルとして公認する。制度の要件や内容、利用できるサービスは自治体によって異なる。親族に限定している公営住宅での同居や、自治体運営の病院での手術同意が可能になる内容が多い。7月1日現在で計56自治体に広がっている(同性パートナーシップ・ネット調べ)。

 京滋では、初めて京都市が要綱を制定し、9月1日から導入する。亀岡市も本年度中の導入を検討している。

 京都市の場合、同性カップルだけでなく、いずれか一方が性的マイノリティーである場合も利用できる。パートナーシップ宣誓書を提出すると、市が宣誓書受領証を交付する。市は市営住宅の入居を認める方針。ほかに企業や医療機関、大学向けに制度を周知する冊子を作成する予定で、さまざまな場面で異性カップルと同様の対応をするよう呼び掛ける。

愛犬ロージーと自宅でくつろぐ麻智さん(左)とテレサさん=京都市下京区
2人の自宅リビングの机に並ぶ本
通りから奥まった自宅から出る2人。表札は自宅をリフォームした大工の手作り
結婚パーティーで弾ける笑みを見せる2人(2015年10月25日、京都市下京区のホテル)
ダイニングに飾られた米国での挙式写真。互いを愛する思いが伝わってくる
日本で提出した婚姻届が不適法として受理されなかったことを示す証明書(左)と、アメリカで取得した結婚証明書=画像の一部を加工しています

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