恋にオシャレ、忘れられない食べ物…。アニメ映画「この世界の片隅に」(2016年製作)の 主人公・すずさんのような人たちを探して、#(ハッシュタグ)でつなげていくキャンペーン企画「#あちこちのすずさん」。あの当時を生き抜いた人たちの何げない日常を、読者から寄せられたエピソードをもとに集めてみました。
家に現れた兵服姿の知らない男性は…。女性(80)の思い出を紹介します。
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越後(新潟県)の山村に生まれた。生後40日ほどで、父は出征し、私が小学生のときに帰還した。
疎開者が増えて、家の蔵も住宅にした。学童も増えて、教室はガタつく木机でいっぱい。教科書も足りないので2人で使った。曲がった鉛筆と消しゴムですぐ破れるノート。それも足りなくて、くじ引きが行われた。
上品な都会っ子は、わんぱくにいじめられて泣いていた。女子はお手玉でよく遊んだが、お手玉やまりつきをするときの歌にも兵隊さんが登場した。
おやつは毎日、お芋。オキナワという黄色くて大きな芋が、量が採れるので流行した。母は蜂蜜状の芋飴をよく作ってくれた。竹串にくるくる巻いて食べる。べっ甲色の芋飴は最高だった。
自分は食べずとも、家族に食べさせるのに必死だった若い母を思う。
ある日、知らない男が来て、私は恥ずかしくて隠れた。
復員してきた父だった。きりっとした足にゲートルがとても美しく巻かれていたのが忘れられない。母は泣いていた。
その足に、撃たれて貫通した傷痕がしこりになっていたことを、後で知った。