#あちこちのすずさん 行進を窓から眺めていた少女たち 隊列がこちらの方に…

 恋にオシャレ、忘れられない食べ物…。アニメ映画「この世界の片隅に」(2016年製作)の 主人公・すずさんのような人たちを探して、#(ハッシュタグ)でつなげていくキャンペーン企画「#あちこちのすずさん」。あの当時を生き抜いた人たちの何げない日常を、読者から寄せられたエピソードをもとに集めてみました。

 当時の思い出を母から聞いた男性(71)から寄せられたエピソードです。職場から兵隊の隊列を眺めていると…

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  新潟県に生まれた母は、尋常小学校高等科を昭和16年の春、14歳で卒業、郵便局に就職した。仕事は電話交換であったという。当時は郵便局が電話業務を担っていた。

 母はよく「朝日のア、いろはのイ」などと和文通話表をそらんじてくれた。電報も扱っていたのであろう。電話は24時間営業だったようで、夜勤もあった。

 夜中の休憩時間に同僚の少女らと2階の窓から外を眺めていると、軍隊の行進が見えた。駐屯地から駅まで向かう隊列だった。

 ところが、まっすぐ歩を進めるはずの隊列が、ぐにゃりと母たちの方に曲がってきたそうだ。

 遠方に向かうはずの部隊は、別れた家族と子どものことでも思い出し、つい、少女らのいるほうに寄ってしまったのであろうと思う。

 母は90歳を過ぎ、以前語ってくれた戦時中の体験もすっかり忘れてしまっている。

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