苦戦予想を覆し、スパ・ウェザーを乗り越えたトヨタ7号車が今季3勝目/WECスパ決勝

 8月15日、WEC世界耐久選手権2019/20シーズン第6戦スパ・フランコルシャン6時間レースの決勝がベルギーのスパ・フランコルシャンサーキットで行なわれ、TOYOTA GAZOO Racingの7号車TS050ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス組)が今季3度目となる総合優勝を飾った(順位結果はこちら)。

 新型コロナウルスの影響によりカレンダーが変更された2019/20シーズンは、2月にアメリカ・オースティンで第5戦が行なわれたあと、セブリング戦がキャンセルとなり、スパ戦が8月へと延期されて第6戦に。さらに6月から9月へと延期されたル・マン24時間が第7戦、11月のバーレーンで第8戦を開催するというスケジュールに変更されている。

 決勝日を迎えたスパは、この週末初めての雨。その勢いはかなり強く、グリッドイン直前のレコノサンスラップでもシグナテック・アルピーヌ・エルフの36号車アルピーヌA470・ギブソンやチーム・プロジェクト1の57号車ポルシェ911 RSRらが水に乗ってスピンを喫するような状況となった。

 このため、各車がグリッドに着く前の段階で早くもセーフティカースタートが宣言された。気温18度・路温25度と、前日までと比べ路気温ともに低いコンディションだ。

 現地時間13時30分、雨がやや小降りとなるなかセーフティカー(SC)に続いて各車がグリッドをあとにした。この時点から6時間レースの計測がスタートしている。

 ポールポジションのレベリオン・レーシング1号車(レベリオンR13・ギブソン ブルーノ・セナ/グスタボ・メネゼス/ノルマン・ナト組)はナトがスタートを担当。2番手スタートの8号車トヨタTS050ハイブリッド(セバスチャン・ブエミ/中嶋一貴/ブレンドン・ハートレー組)はブエミ、続く7号車TS050ハイブリッド(マイク・コンウェイ/小林可夢偉/ホセ・マリア・ロペス組)はコンウェイがスタートからステアリングを握っている。

 4周を終えてSCが外れ実質スタートが切られると、LMP1の4台は順位を保ったまま1コーナーを通過。しかし続くケメルストレートエンドまでに、2台のトヨタTS050ハイブリッドがレベリオン1号車をパスする。レベリオンはさらに翌周、バイコレス・レーシング・チーム4号車(ENSO CLM P1/01・ギブソン)のトム・ディルマンにもパスされる。

 30分を経過したところで、8号車トヨタのブエミが最終コーナーで突如コースアウトし、その後コースに復帰しても一瞬、加速が鈍る。どうやら何らかのトラブルが起きた模様。幸いすぐにペースを取り戻したが、これにより一時10秒以上あった後続の7号車との差が、4秒を切るまでに縮まる。

 時を同じくしてバイコレスも一瞬のスローダウンに見舞われ、レベリオンの先行を許してしまう。

 16周目のレベリオンを皮切りにLMP1の最初のルーティンピットが始まっていく。20周を終えてにピットに入った8号車トヨタがタイヤを換えずにコースに戻ったのに対し、翌周にピットに入った7号車はタイヤをスリックへと交換する。

 直後は交換時間の差もあってか、8号車が7号車に対するリードを30秒程度にまで広げたが、次第に路面はドライアップしていく。レベリオンはタイヤ交換のため2度目のピットに向かい、バイコレスがこれを再逆転して3番手に立った。

 1時間が経過し、トップが25周目に入ったところで、LMGTEアマクラスの98号車がサンドトラップに埋まったためセーフティカーが導入され、各車のギャップがリセットされた。

 29周目終わりでリスタートが切られると、トップの8号車はそのままピットへ飛び込みスリックへと交換。7号車がトップに立った。

 スリックへと切り替えるタイミングの良さを活かし、7号車は8号車に対して50秒弱の差をつけた。なお、路面がほぼドライとなっても、ノンハイブリッドのバイコレス、レベリオンはトヨタのペースに2〜3秒ほど及ばない。

2度の失速トラブルに見舞われた8号車は、2位。タイヤ交換の判断で7号車におくれをとる場面も見られた。

■またもトヨタ8号車をトラブルが襲う

 2時間が経過しようとする頃、ふたたびスパの空からは雨が落ち始めた。

 43周を終えて7号車コンウェイがピットに入る。小林可夢偉へと交代すると同時に、ウエットタイヤへと交換。同じ周に8号車もピットに入り、ハートレーへと交代。こちらもウエットへとタイヤを交換する。

 LMP1のバイコレス、レベリオンもこれに続き、さらには濡れた路面によるものと思われるコースアウトが相次ぐなか、他クラスもこのタイミングで続々とピットへ飛び込んでウエットタイヤへと交換していく。

 8号車のハートレー、7号車可夢偉ともにケメルストレートエンドでオーバーランを喫する場面が見られたり、1号車のメネゼスも最終コーナーをオーバーランするなど、各車雨に翻弄される厳しいレース展開となる。

 ヘビーレインのなか7号車可夢偉はリードを拡大していくが、雨が強まったため2時間22分経過時点、トップが57周目に入ったタイミングで3度目のSCが導入された。

 7号車と8号車の差はこれでほぼなくなった。SC中にピットインしてオリバー・ウェッブへとドライバー交代をしたバイコレスがクラス4番手へと後退、さらにトヨタ2台も同時にピットに戻り、いずれも新たなウエットタイヤへと交換。ドライバーはそのままだ。

 このアウトラップで8号車はまたしても一瞬加速しないような症状が出てしまい、7号車のリードが40秒程度に拡大した状況でリスタートを迎える。レースはちょうど半分、3時間を経過した。

 3時間半を迎える頃には路面の水量がふたたび少なくなっていき、上空には晴れ間も見え始める。

 レコードライン上が乾き始め、GTEクラスの車両がスリックタイヤへと交換していくなか、84周を終えて7号車可夢偉がピットへ。ロペスへとバトンタッチし、スリックタイヤに交換。直後に8号車もピットへと滑り込み、一貴への交代とスリックへの交換を行なった。

 4時間を経過して、トヨタ2台のギャップは40〜45秒ほど。ラップタイムはすっかりドライ時のものに回復した。このタイミングでは、すでにラップダウンとなっている3番手のレベリオンが、トヨタ勢より早いラップタイムで周回する場面も見られた。

 残り1時間20分のところで導入されたSCにより、周回おくれを挟むトヨタ2台の差は5秒程度にまで詰まり、116周を終えて残り57分のところでリスタート。一貴はロペスとの差をじりじりと詰めていく。121周目には両者の差は2秒を切った。

 少しのミスも許されない緊張感の漂うなか迎えた最後のルーティンストップは、追いかける8号車から。ここで一貴からブエミへとドライバーを交代し、タイヤも交換。次の周にはリーダの7号車がピットインし、コンウェイへの交代とタイヤ交換を行なった。

 ピットを終えると2台の差は10秒程度にまで拡大しており、事実上これで勝負は決着。さらに8号車は残り4分のところで燃料スプラッシュのためのピットインを要し、最終的には34秒の差をつけて7号車がシルバーストン、バーレーンに続く今季3勝目を挙げた。

 予選まではレベリオンに圧倒され、決勝でも苦戦が予想されていたトヨタ勢だったが、それを見事に覆した形の勝利となった。

 3位には1周遅れでレベリオン1号車が入り、終盤にガレージインもあったバイコレスは、17周おくれの総合27位でチェッカーを受けている。

今季3度目の優勝を飾ったトヨタ7号車TS050ハイブリッド。

■クラッシュで上位争いが決着したLMP2クラス

 LMP2クラスはPPからスタートしたユナイテッド・オートスポーツ22号車オレカ(フィル・ハンソン/フェリペ・アルバカーキ/ポール・ディ・レスタ組)がリードし、レーシングチーム・ネーデルランド29号車オレカ(フリッツ・バン・イアード/ギド・バン・デル・ガルデ/ヨブ・バン・ウィタート組)が追いかける展開となった。

 2時間目に突入してSCが明けたあとには、アルバカーキとバン・デル・ガルデによる2台の直接対決も勃発。スリックタイヤで雨のなかを走る状況下、バン・デル・ガルデがトップに躍り出る。

 山下健太がファーストスティントを担当したハイクラス・レーシングのオレカは序盤からポジションを上げたが、開始1時間で導入されたSC中に山下がスピンを喫して後退しまう。「雨のなか、だいぶオーバーステアでつらかった」とマシンを降りた山下。

 4時間を経過するころ、22号車のハンソンにシグナテック36号車のトマ・ローランが迫り、2番手争いが勃発。オー・ルージュでハンソンがGTEクラスに詰まったところを、ローランが鮮やかにパスする。しかしハンソンもローランに暗いつき、勝負は再び接近戦へと持ち込まれた。

 29号車がバン・ウィタートからバン・イアードに変わるタイミングで、36号車と22号車の2台はいったんクラストップへ。その後ローランはハンソンを押さえ込んだままピットへ向かう。

 次の周には22号車がピットに入り、ディ・レスタへと交代。ニュータイヤへと交換してコースに戻るとまたしてもローランとのバトルになった。2台はオー・ルージュへの進入で横並びになると、そのままラディオンの丘を駆け上がる。

 ケメルストレートエンドでいったんは前をキープした36号車だったが、ディ・レスタも諦めず、次の周の1コーナーでローランを攻略することに成功、2台で20秒先の首位・29号車のバン・イアードを追う展開となった。

 瞬く間に差を詰めたディ・レスタはレース残り1時間20分あまりとなった107周目の1コーナーで29号車をパスし、トップを奪う。

 36号車のローランも同じ周にバン・イアードをパスしようとターン16で並びかけるが、スペースがなくなってマシン左側をグリーンに落とし、コースを横切って右側のタイヤバリアへと大クラッシュ。これでSCが導入されることとなった。

 リスタート後、29号車をクール・レーシングの42号車オレカ(ニコラ・ラピエール/アントニン・ボルガ/アレクサンドレ・コニー組)のラピエールがパスして2番手に浮上。さらに残り25分で29号車が最後のピットを済ませると、ハイクラス・レーシング33号車はクラス3番手へと浮上していた。

 42号車が残り23分でピットインしたことにより暫定2番手に浮上していたハイクラス・レーシングのマーク・パターソンだったが、最終コーナーでスピン! 42号車と29号車に先行され、クラス4番手へと転落し、その後はスプラッシュのためピットへと向かった。

 クラストップでチェッカーを受けたのは、ユナイテッド・オートスポーツ22号車で、バーレーン、オースティンに続く3連勝となった。2位にクール・レーシング42号車、3位にレーシングチーム・ネーデルランド29号車というトップ3になっている。

 山下健太のハイクラス・レーシングはクラス5位、山中信哉のユーラシア・モータースポーツはクラス8位でレースを終えた。

LMP2のクラス優勝を遂げたユナイテッド・オートスポーツの22号車は、これで3連勝。

■最終ラップまで激しい争いが続いたLMGTEプロはポルシェが制す

 LMGTEプロクラスは序盤からポルシェ、アストンマーティン、フェラーリの3メーカー6台すべてが絡む大接戦となった。

 まずはAFコルセ51号車フェラーリ488 GTE Evo(ジェームス・カラド/アレッサンドロ・ピエル・グイディ組)が先行する。ポルシェGTチームの92号車ポルシェ911 RSR(マイケル・クリステンセン/ケビン・エストーレ組)はいち早くスリックへの交換を敢行し、他クラスもこれにならう形に。

 開始1時間のところで導入されたSCの時点で、51号車フェラーリ、92号車ポルシェ、91号車ポルシェ911 RSR(ジャンマリア・ブルーニ/リチャード・リエツ組)がトップ3を形成し、アストンマーティンの2台が続くが、リスタートでは92号車ポルシェが先行しトップに立った。その後51号車が逆転するが、バトルはやはり随所で続く。

 4時間目を迎えて雨が弱まったところで、各車は再びスリックタイヤへと交換。ピットを終えたところで92号車クリステンセンがトップを奪い返すが、背後には95号車アストンマーティン・バンテージAMR(マルコ・ソーレンセン/ニッキー・ティーム組)のティームが張り付く。82周目のケメルストレートエンドでクリステンセンがブレーキをロックアップさせてしまいオーバーラン、ティームが首位を奪った。

 だがティームは逃げ切ることができない。クリステンセンはぴたりと背後につき、トップ再浮上の機会をうかがう。その後、先にルーティンピットへと飛び込んでエストーレへと交代した92号車ポルシェがソレーンソンに交代した95号車を逆転、実質トップを奪い返した。
36号車のクラッシュにより導入されたSCのおかげもあり、2台はテール・トゥ・ノーズの状態となる。

 このSC中に残り1時間を迎え、ここで97号車アストンマーティン・バンテージAMR(アレックス・リン/マキシム・マルタン組)を除くGTEプロの5台がピットに飛び込んで給油作業を行なう。作業を終えると97号車が首位に躍り出ていた。

 以下、92号車ポルシェ、95号車アストンマーティン、51号車フェラーリ、91号車ポルシェという順で残り57分のリスタートを迎えた。92号車はピットで僚友の91号車と重なったことでタイムロスを喫したようだ。

 97号車のマルタンを、92号車のエストーレが追い詰めていく。だが、ピットからは各車に燃費セーブの指示が飛び、差はなかなか縮まらない。

 126周目の1コーナーで首位を守っていた97号車マルタンがオーバーラン。92号車ポルシェがここでトップの座を手に入れることとなった。

 終盤には51号車フェラーリのカラドと、91号車ポルシェのブルーニによる4番手争いが白熱。

 残り6分で2番手だった97号車がたまらずピットに飛び込み、5秒ほどの燃料スプラッシュを済ますと、51号車フェラーリの鼻先でコースに復帰する。すぐ後ろには91号車ポルシェが迫っており、3台がほぼ1パックの状態で3番手争いを形成することになった。

 トップ2台の燃費が心配されるなか、ファイナルラップへと突入。92号車ポルシェが逃げ切って今季初優勝。2位に95号車アストンマーティン、97号車アストンマーティンが3位に続いた。

GTEプロクラスの接戦をものにしたポルシェ92号車。最後は燃費レースにもなった。

 LMGTEアマクラスではAFコルセの83号車フェラーリ488 GTE Evo(フランソワ・ペロード/エマニュエル・コラール/ニクラス・ニールセン組)がクラス優勝。

 2位はデンプシー・プロトン・レーシングの77号車ポルシェ911 RSR(クリスチャン・リード/リカルド・ペーラ/マット・キャンベル組)、3位はTFスポーツの90号車アストンマーティン・バンテージAMR(ジャン・ルカ・ジラウディ/リカルド・サンチェス/ルカ・レゲレット組)という順位でフィニッシュした。

83号車のフェラーリがGTEアマクラスの優勝を飾った。

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