【高校野球】“甲子園のスター”不在の夏 明石商、中森&来田が秘める世代全体への影響力

明石商・中森俊介【写真:松倉雄太】

中森と来田は試合後、揃って進路への明言を避けた

新型コロナウイルスの影響で中止となった選抜出場予定32校による「2020年甲子園高校野球交流試合」の大会5日目が16日、甲子園球場で行われ、第1試合で明石商が3-2で桐生第一に勝利。エースの中森俊介投手が5安打2失点9奪三振完投、1番主将の来田涼斗外野手は4打数1安打も、中軸が機能し接戦を制した。1年夏から4季連続の甲子園出場、昨年は春夏連続の4強にも貢献した投打の主役。試合後は二人揃って進路についての明言を避けたが、世代を代表するスター候補の決断には各方面から注目が高まっている。

中森は初回から危なげない立ち上がりで、2回から6回までは毎回の三者凡退。終盤こそ疲労による制球の乱れから失点を許したが、4季連続の甲子園に恥じない堂々のピッチングを披露した。来田は3回の第2打席で内野安打。得点に絡む活躍はなかったが、主将として、リードオフマンとして、精一杯にチームを牽引した。

「序盤はいい感じでしたが、終盤は体力的にバテてきた。勝てたことはよかったけど、たくさん課題のあった試合でした」と中森。注目の集まる進路については「大学かプロか。試合前は完封して自信を持ってやれたらプロでも通用すると思って臨みましたが、最終的に2失点してしまったんでまだまだ実力が足りない」と語るに留めた。同じく来田も「次のステージはまだ全然決めていない。僕もこういう形で終わってしまったので、親や監督さんとしっかり話して決めたい。プロに行ったとしても全然自分の実力は足りてないと思うので」と白紙を強調した。

コロナ禍で練習や実戦の機会が激減した今年、自身の実力を試す場がなく、不安な思いを抱えているのは世代を牽引してきた二人も例外ではない。ただ、度重なる大会中止で“甲子園のスター”が生まれづらい状況の今年、その役割を担う存在となりえる選手は多くはない。

1998年の「松坂世代」、斎藤佑樹と田中将大の投げ合いが注目された「ハンカチ世代」、近年では清宮幸太郎や吉田輝星、佐々木朗希や奥川恭伸など、高校時代に突出したスターが現れると、その選手のプロでの活躍如何に関わらず、世代全体のレベルが底上げされるのは高校野球の常だ。甲子園のスター選手はプロに進んだ後も必然的に報道量が多くなり、大学や社会人に進んだ同期の選手にも大いに刺激になる。

だが、今年はコロナ禍で春夏とも甲子園が中止。実質的な“スター不在”の状況が続く。そんななかで世代を牽引する存在になりうるのが、1年夏から甲子園で活躍してきた中森と来田の二人だ。

あるスカウトは「中森くんも来田くんも、さすがに堂々とプレーしていた。彼らのような、全国の球児が目標とする選手がプロに来てくれれば、大学や社会人に進んだ他の選手も追いつけ追い越せと一層練習に身が入るでしょう」と二人が与える影響力の大きさを指摘。「もちろん彼らの人生だから無責任なことは言えないが、もしプロに進めば間違いなく世代全体のレベルには好影響を与える」と力説する。

全国の球児から追われる立場であることについて「自分自身、もっと上を目指して追いかける立場。そこは考えてません」と話した中森。聖地での高校最後の試合を経てどんな決断を下すのか、はたして。(佐藤佑輔 / Yusuke Sato)

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