『僕は猟師になった』命と向き合う真摯さ

 2018年にNHKの番組『ノーナレ』枠で放送された『けもの道 京都いのちの森』を300日にわたる追加取材を行って編集し直したドキュメンタリー映画だ。「猟師」といっても、猟銃は出てこない。「くくりわな」という、ワイヤーと塩ビ管などで自作した輪にイノシシやシカなどが足を入れると輪が締まって生け捕りにできるという原始的なわなを用いる。京都で19年間、その猟を続ける千松信也の日常に密着している。

 印象的なのは、獲物が生け捕りになった後。向かって来る彼らを落ちていた木の棒で殴って気絶させ、ナイフで心臓を一突きにして、その場で血を抜くのだ。時には、まだ子ジカだったり、妊娠した雌イノシシの子宮から複数の胎児が出てきたり…。それでも、「猟師になったのは、動物が好きだから。自分が食べる肉の調達を、誰かにやらせるというのは気持ち悪い」と語る千松からは、命と向き合う真摯さが伝ってくる。

 だから、テーマは“食育”と言える。野生のイノシシの焼肉やその骨から採った“豚骨スープ”が美味しそうなだけでなく健康にも良さそうで、千松の子供たちがうらやましくなる。ただし、彼が脱サラして有機栽培を始めた農家と一線を画するのは、全国で年間160億円に及ぶ“獣害”にも言及されるから。千松家が命を残さず味わう一方で、税金を使って命が大量に焼却される社会矛盾は、まるでギャグ。行き着くのは、やはり人間の問題なのだ。★★★★☆(外山真也)

監督:川原愛子

語り:池松壮亮

出演:千松信也

8月22日(土)から全国順次公開

© 一般社団法人共同通信社