手花火のように

 墓参りの折や精霊流しの夜に、この夏も手持ち花火をした人は多いだろう。うつむいて眺めるせいか、手花火(線香花火)はとりわけ、人を物思いに誘うような趣がある。〈手花火のこころの中に散るごとし〉川口重美▲夜空に大輪を咲かせる打ち上げ花火には程遠く、今の景気はいわば、うつむいて見る手花火だろう。4~6月期の実質国内総生産(GDP)は、戦後最悪のマイナス成長になった▲多くの人がレジャーや外食を控えた影響で、サービス業のマイナスが目立つ。個人消費に支えられる内需が崩れ、輸出を中心とする外需は止まった▲元に戻るまで数年かかるとみられる。感染拡大を抑えようと政府は緊急事態宣言を出し、意図して経済活動にブレーキをかけた。「戦後最悪」と知って、驚くよりも「ああ、やっぱり」とうなずいてしまう▲経済の下支えは、言うまでもなく政府が担う。感染拡大のさなかに前倒しで国内旅行をお勧めする間の悪さ、ちぐはぐさを再びあらわにしてはなるまい。国民の目を引くだけの、打ち上げ花火のような策も要らない▲〈ねむりても旅の花火の胸にひらく〉大野林火。旅先で見た花火の残像が、宿で寝入っても胸に映っていたのだろう。景気が手花火のようなこの時節、夜空を焦がし、景気よく咲く大輪は夢の中にある。(徹)

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