【サンデー美術館】 No.268 「奇才展後期展示」

▲浦上玉堂 山澗読易図 岡山県立美術館蔵

 奇才展は8月最初の月曜日に展示替えがあって、作品のほとんどが入れ替わった。この作品も後期展示で新たに紹介されるもの。

 作品に付された解説によれば、題名の意味は、山と川の間で『易経』を読むということらしい。『易経』とは中国の古典で、陰陽をもって自然と人生の変化の道理を説くものだという。

 描き込んだ墨の濃い部分と簡略な線が残した白い部分のバランスが絶妙な画面を、ゆっくりと眺めてみる。一番下の中央に描かれた小さな家の窓に、赤い書物を手にした後ろ向きの人物が見える。彼こそ画中の主人公なのだろう。大きな樹木の間に見える建物も何棟かあるが、そこに人の気配はない。家の背後には、もくもくと盛り上がった大きな岩山が続き、その間を滝が流れ落ちている。

 大自然のなかに小さな住まいを整え、そこに潜みながら古典を読み暮らす――そんな古い時代の文人たちの夢は、今もなお十分に魅力的である。

山口県立美術館学芸参与 斎藤 郁夫

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