アリババ、テンセント、シャオミ、有力テック企業が並ぶ、香港版ナスダック指数「ハンセン・テック指数」とは

7月27日、香港ハンセン指数やH株指数を算出しているハンセン指数公司は、テクノロジー企業30社から構成される新たな指数「ハンセン・テック指数」の算出と公表を開始しました。近年、急成長するテクノロジー企業に焦点を絞り、香港版ナスダック指数とも呼ばれます。市場にどのような変化をもたらすのでしょうか。


テクノロジー企業に焦点を絞った「ハンセン・テック指数」

今まで香港市場の株価指数といえば、香港ハンセン指数とH株指数が代表的でしたが、これらの指数は金融の構成ウェートが4割以上と高く、近年急成長している新興経済の動向を十分に反映できていない欠点がありました。

一方、ハンセン・テック指数はインターネットやフィンテック、クラウド、Eコマース、そのほかデジタル業務の関連企業に焦点を絞り、香港ハンセン指数の欠点を補う存在として注目されています。

実際、香港メインボードに上場するテクノロジー企業は、時価総額の面で全体の約33%、売買代金の面で全体の約28%をそれぞれ占めるなど、既に相場の主役になりつつあります。

指数算出元のハンセン指数公司は、ハンセン・テック指数の創設によって「今後同指数に連動するファンドやデリバティブ商品が増え、香港ハンセン指数やH株指数に次ぐ代表的な指数になる」と期待を寄せています。

構成銘柄は「ATM」3社など有力なテクノロジー企業

ハンセン・テック指数の主な構成銘柄を見ると、大手Eコマース企業のアリババ・グループ(Alibaba Group)と大手ゲーム・SNS企業のテンセント(Tencent)、大手フードデリバリーの美団点評(Meituan Dianping)の頭文字から成る「ATM」3社が構成ウェートの上位を占めています。

このうちアリババ・グループとテンセントの時価総額はそれぞれ約73兆円と約67兆円と、米国のGAFAM(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン、マイクロソフト)に次ぐ規模となっています。

ATM3社以外では、スマホ世界第4位のシャオミ、スマホ向けカメラレンズ・モジュール大手のサニーオプチカル・テクノロジー、半導体ファウンドリ中国最大手のSMIC、医薬品オンライン販売大手のアリババ・ヘルス、ネット通販中国第2位のJDドットコムといった有力なテクノロジー企業が指数に採用されています。

優れた株価パフォーマンス

ハンセン・テック指数は従来の香港ハンセン指数に比べて、構成銘柄が大きく異なるため、両指数の株価パフォーマンスにも大きな差が生じています。

例えば、今年ハンセン・テック指数の年初来騰落率は+49.1%と香港ハンセン指数の-10.5%を大きく上回っており、過去5年間で見てもほとんど期間においてハンセン・テック指数のほうが優れた株価パフォーマンスを示しています。

もちろん、株式投資の世界ではリターンとリスクは表裏一体で、ハンセン・テック指数のボラティリティ(リスク)も相対的に高いのですが、中長期目線で見れば魅力的な投資対象であることに変わりはないと言えます。

中国のユニコーン企業が上場する動きも

近年、香港証券取引所による種類株(議決権の異なる株式)発行企業の上場容認や、米国政府による中国企業ADRへの規制強化を背景に、中国のユニコーン企業や大手IT企業が香港市場でIPOを行うケースが増えています。

直近では、今年6月にゲーム大手のネットイースとネット通販大手のJDドットコムが、今までの米ナスダック(ADR上場)に加えて香港にも上場を果たしました。

また、上記の2社以外では、アリババ傘下の金融会社であるアント・ファイナンシャルが香港上場の意向を示しており、ティックトックでお馴染みのバイトダンスや配車アプリ中国最大手の滴滴出行(ディーディー)にも香港上場の観測も出ています。

このうちアント・ファイナンシャルの評価額は1500億米ドル(約16兆円)、バイトダンスと滴滴出行の評価額はそれぞれ1400億米ドル(約15兆円)と560億米ドル(約6兆円)といずれも投資家から高く評価されています。

今後、これらのユニコーン企業が香港に上場し、ハンセン・テック指数に採用されれば、テック企業の存在感はさらに高まって関連銘柄への資金流入が加速すると予想されます。

最大のリスクは「ティックトック」?

このようにハンセン・テック指数は中国の新興経済の動向を把握する上で非常に参考になりますが、同時にリスクにも注意する必要があります。同指数にとって、最大のリスクはテクノロジー分野における米中の覇権争いです。

8月6日、米国のトランプ大統領は安全保障上のリスクを理由に、9月下旬から動画投稿アプリ「ティックトック」を運営するバイトダンスと、SNSアプリ「ウィーチャット」を運営するテンセントとの取引を禁じると発表しました。米国の対中制裁をきっかけに、中国のテクノロジー企業のグローバル展開が阻まれ、ハンセン・テック指数の株価パフォーマンスにも悪影響を及ぼすでしょう。

しかし目下、中国のテクノロジー企業の多くは巨大な内需を主な収益源としており、米国からの圧力を受けながらもビッグデータやAI、IoT、5Gといった先端分野で独自の発展を遂げる可能性があると見ています。

<文:市場情報部 アジア情報課長 王曦>

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