【レースフォーカス】ヤマハ勢2ライダーの苦戦/KTMの同士討ち/6位の中上、次戦へ手ごたえ:MotoGP第5戦

 レース1で大クラッシュが発生したMotoGP第5戦オーストリアGPは、レース2でも波乱含みの展開となった。今回は『苦戦のヤマハのクアルタラロとビニャーレス』、『KTMの“同士討ち”、双方の言い分』、『6位フィニッシュの中上、次戦への手ごたえつかむ』についてお届けする。

■苦戦のヤマハのクアルタラロとビニャーレス

 オーストリアGPでは、ヤマハのファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハSRT)とマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)が苦戦を強いられた。クアルタラロは3番グリッドからスタートしたレース1の序盤に4コーナーでバイクを止められず、コースアウト。大きく順位を下げ、レース2を最後尾からスタートした。レース2では追い上げたが、8位フィニッシュとなった。

 前戦チェコGPではタイヤのグリップ低下に苦しみ表彰台を逃したクアルタラロ。今回は、また別の問題が発生していたという。それは、技術的な問題だった。

「スタートからブレーキが柔らかいと感じていた。マッピングは今週すべてで使ってきた、いつもと同じもので、ブレーキングポイントも同じだった。4本の指を使ってバイクを止めようとしたよ。すごく危険だった」

大クラッシュを間一髪で回避したマーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハMotoGP)/2020年MotoGP第5戦オーストリアGP

 そのため、フランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハSRT)とヨハン・ザルコ(エスポンソラーマ・レーシング)のクラッシュにより赤旗が提示されてレースが中断している間、クアルタラロはレース2に向け、ブレーキディスクとキャリパーを交換した。しかし、状況は改善されなかった。

「ライダーの後ろにつくと、ブレーキが利かなくなる。単独走行になると、速さを取り戻すんだ」

 クアルタラロはこの問題によりレース2に向けてナーバスになったという。

「300km/hでコーナーに入ったとき、ブレーキが利かない。すごく心配だった。ブレーキが機能するかわからなかったから、集中するのが難しかったんだ」

 一方、ビニャーレスはクアルタラロとは違った問題を抱えていた。ビニャーレスはポールポジションを獲得した予選日、マシンのフィーリングのよさについて語った。レース1ではポジションを落としたが、それでもトップグループの範囲内、5番手を走行していたのだ。

 しかし、レース2で状況は一変した。6番手からスタートしたのち、1周目で最後尾まで後退することになる。

「1、2、3コーナーからストレートでクラッチが滑り始めたんだ。それで、手を上げて周りにアピールした。あまりにもバイクが遅かったから」

 クラッチのトラブルにより、ビニャーレスのペースはレース1の序盤よりも約1秒以上落ちている。この状況に、ビニャーレスは「3周をすぎて、もうピットに戻ってレースを終わらせようかとも考えた」という。

 しかし、バイクは再び調子を取り戻した。少しずつ追い上げ、10位フィニッシュ。週末を通して厳しい状況だったわけではない。決勝レースで見舞われたそれは、まさに予想外の出来事だった。

「いい感じで走れたし、何人か交わせたのはよかった。けれど、モチベーションをキープするのは難しかったよ。だって、フリー走行で調子がよくて、予選ではパーフェクトだったんだ。それなのに、レースではこんなことが起こったんだから」

 ここ2戦、表彰台を逃しているクアルタラロとビニャーレス。次戦スティリアGPへ向け、改善点を探りたいところだろう。

■KTMの“同士討ち”、双方の言い分

 レース2ではKTMライダーによる、“同士討ち”が発生した。ポル・エスパルガロ(レッドブル・KTM・ファクトリーレーシング)とミゲール・オリベイラ(レッドブルKTMテック3)が、9周目の4コーナーで接触、転倒したのだ。ふたりはここでリタイアとなった。

 決勝レース後のオンライン取材で、ふたりのライダーはそれぞれに状況を説明した。この取材前、エスパルガロとオリベイラは話し合いを持ったという。取材のなかででふたりは「お互いがお互いを見ていなかった」という接触時の状況を示したが、原因についてはそれぞれの見解を説明した。

 オリベイラによれば「ポルは何度かワイドになっていて、4コーナーでもはらんでいた。僕がポルに近づいたとき、彼がすごくすごくワイドになったんだ。ポルがイン側に戻ってきたとき、彼は僕を見ていなかった」ということだ。そしてエスパルガロは、オリベイラのマシン後部に接触した。

 では、なぜエスパルガロが何度もラインを外していたか。実はエスパルガロは、レース2で予定外のタイヤを履いていたのだ。エスパルガロはレース1で、フロントにハード、リヤにミディアムタイヤを装着した。そして、レースをリードしていた。

 しかしアクシデントにより赤旗中断。20周に設定されたレース2に向け、すでにリヤに履く新品のミディアムタイヤはなかった。やむなくエスパルガロは、リヤにソフトタイヤをつけてレース2のグリッドについた。

2020年MotoGP第5戦オーストリアGP ポル・エスパルガロ(レッドブルKTMファクトリー・レーシング)

「これは僕のミスでもあり、チームの、KTMのミスでもある。リヤにソフトタイヤを履いたけれど、ソフトでは予選で3周したことがあるだけだった。レース2で遅かったのはそれが理由だ。それがすべてだよ」

「リヤタイヤはブレーキするのにまったく役に立たなかった。バイクを止められなかったんだ。すべてのコーナーでワイドになってしまった」

 エスパルガロは確かに9周目の4コーナーでワイドになったことを認め、お互いがお互いを見ていなかったと語ったうえで、「これはレーシングアクシデントと呼ばれるものだと思う」と述べている。

 一方のオリベイラは、取材に姿を現すころには落ち着きを取り戻していたが、転倒のあとのピットでは、怒りをあらわにする様子を見せていた。転倒時、エスパルガロは5番手、オリベイラは6番手を走っていた。「(転倒がなければ)表彰台をねらえたかもしれない」と言うのは、偽らざる気持ちだろう。

「僕の経験上、もしインサイドに隙間があるなら、ライダーはそこに飛び込むことは理解している。それがレースだし、競い合いの原則だ。誰かがワイドになったら、そこに行くだろう。けれど、少なくとも僕は、ラインを外して戻るときには、常に内側に誰かがいるかどうかに注意を払う。この場合、(ラインがワイドになった)ポルは僕を見ていなかったと思う。そして、アクシデントが起こった。僕は責めたくないし、言いたくもない。ただ、画像を見たら、僕は内側にいるわけで、いらいらはするよ」

 KTM同士のアクシデントは、それぞれが別のフラストレーションを噴出させる結果となった。なお、このアクシデントについては8月20日にFIM MotoGPスチュワードがエスパルガロ、オリベイラそれぞれにヒアリングを行うことが発表された。

■6位フィニッシュの中上、次戦への手ごたえつかむ

 中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)は、前戦チェコGPでは右足に負った水ぶくれの痛みに苦戦していた。ヘレスのひどい暑さと、ライディングスタイルを変更したことが要因だ。中上は第3戦アンダルシアGPから、リヤブレーキを多用するマルク・マルケスのライディングスタイルに近づけようとしていた。

 オーストリアGPの初日は水ぶくれの対策として新しいブレーキペダルを試したという。しかし感触がよくなく、通常のペダルに戻した。こうしたなか、総合で3番手につけた。予選ではQ2へのダイレクト進出を果たすと、レース2では6位でフィニッシュ。レース後のコメントも前向きだ。ただ、気がかりな点があった。

2020年MotoGP第5戦オーストリアGP 中上貴晶(LCRホンダ・イデミツ)

「いつなのか覚えていないのですが、(レース2の)3コーナーでミスをしました。僕は(ブラッド・)ビンダーの後ろをいいペースで走っていて、バイクの感触もよかったんですけど、その周だけ、そのコーナーのその瞬間、問題が起こったんです」

「しかし、すでにチームとは話し合いました。チームが言うには、おそらく、ブレーキ温度が上がりすぎたせいだろうということです。ビンダーの後ろで2ラップに渡って走っていたからです。そのとき、ブレーキングポイントなどは変わらなかったのに、ブレーキのパフォーマンスは50%くらいに感じました」

 しかし、その後は問題なくペースを刻んだ。予選日から苦戦しているというセクター2の課題はあるが、それもマッピングの変更という改善点が見えている。「パッケージ全体としてはとてもいいです。レース中、バイクを気持ちよく走らせることができました」と語り、今回同様にレッドブル・リンクで行われる次戦に向け「セクター2を改善できれば、表彰台に向けて争うことができるでしょう」と自信を見せた。

 次戦に向け、水ぶくれを負った右足のリヤブレーキ対策として、中上はサムブレーキの投入を検討しているという。自己ベストリザルト更新、そして表彰台獲得に向け、中上はレッドブル・リンクの2度目のレースを戦う。

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