【F1第6戦無線レビュー(1)】メルセデスを気にする戦略にフェルスタッペンが苦言「自分たちのレースをやろうよ」

 今年の第6戦スペインGPでは、ドライバーとチームとの無線のやりとりで、緊張状態となった瞬間が何度かあった。そのうちのひとりが、マックス・フェルスタッペンと、レッドブル・ホンダのフェルスタッペン担当レースエンジニアであるジャンピエロ・ランビアーゼの無線交信だ。その当時の前後の状況とともに、無線を振り返る

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 スタートでバルテリ・ボッタス(メルセデス)をかわして2番手に上がったフェルスタッペンの出だしは、悪くなかった。先頭を走るルイス・ハミルトン(メルセデス)との差が2秒以上に広がらないまま6周がすぎると、ランビアーゼがフェルスタッペンにこう告げる。

レッドブル・ホンダ:ハミルトンとのギャップが縮まり出している

 しかし、フェルスタッペンは、それがハミルトンの全力ではないことを感じ取っていた。

フェルスタッペン:わかっているよ。だって、ハミルトンはいま超スロー走行しているからね

2020年F1第6戦スペインGP ルイス・ハミルトン(メルセデス)&マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)

 フェルスタッペンの勘は当たった。13周目からハミルトンのペースは1分23秒前半に入り、1分23秒半ばのフェルスタッペンとの差が広がっていった。そして、16周目にランビアーゼから前後のペースを知らせる無線が入る。

レッドブル・ホンダ:いまハミルトンは23.3で、ボッタスは23.7だ

 ところが、2周後の18周目にフェルスタッペンは1分24秒台に落ち、たまらず報告する。

フェルスタッペン:リヤが厳しくなってきた

 それでもピットが動かないと、早くピットインしてタイヤを変えたいと訴える

フェルスタッペン:ターン7が最悪だ。もうタイヤが終わっちゃったよ

レッドブル・ホンダ:ターン7はいま追い風がひどいだけだ

フェルスタッペン:追い風は関係ないよ。いやタイヤが完全に終わっているんだ

 しかし、このときフェルスタッペンの20秒後方にレーシングポイントのランス・ストロールがいたため、その後ろに回りたくないレッドブル・ホンダ陣営は、タイヤが終わっているものの、まだストロールよりもペースが速いフェルスタッペンをステイアウトさせて、十分なギャップを築いてからピットインさせるつもりだった。

 ところが、フェルスタッペンはその戦略に納得がいかず、再び無線でこう訴える。

フェルスタッペン:もう一度繰り返してもらいたいの? タイヤは完全に終わっているんだよ

レッドブル・ホンダ:繰り返してもらわなくてもだいじょうぶだよ、マックス

フェルスタッペン:いま、僕たちはものすごくタイムを無駄にしている。渋滞のなかに入っても問題ないよ。彼ら(レーシングポイント)なんて、すぐ抜けるから

 21周目、ストロールとの差が22秒以上となったのを確認して、レッドブル・ホンダはフェルスタッペンをピットインさせ、ミディアムタイヤに履き替えさせた。

2020年F1第6戦スペインGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)

 これを見てメルセデス勢も相次いでピットイン。一時は7秒以上に広がったハミルトンとの差は縮まったものの、まだ4秒以上あった。そこでチームはフェルスタッペンにレース後半へ向けての戦略を、こう説明する。

レッドブル・ホンダ:ハミルトンをアンダーカットするのはかなり難しいから、ボッタスに抜かれないようにしよう

 しかし、この無線にフェルスタッペンがキレた。

フェルスタッペン:あのさあ、彼らのことはもういいよ。まずは自分たちのレースをやろうよ。もう、ルイスのことは考えなくていいよ。だって、ソフトタイヤでは彼らほどのペースがなかったのは明らかだったんだから。僕たちは自分たちのやるべきことをやろうよ。彼らだって、自分たちのレースをしているんだから

レッドブル・ホンダ:落ち着いていこう、マックス

 その後、ボッタスがフェルスタッペンの背後1.5秒差まで迫ってくると、レッドブル・ホンダは41周目にフェルスタッペンをピットインさせ、再びミディアムを履かせた。

 その後メルセデスはボッタスにフェルスタッペンのオーバーカットを狙わせたものの、うまくいかず、2度目のピットインではフェルスタッペンと異なるタイヤで最終スティントに臨んだ。結局それも功を奏さず、最後はフェルスタッペンを追うことを諦めて、ファステストラップ狙いに切り替えたため、最終的にフェルスタッペンは2位でフィニッシュした。

2020年F1第6戦スペインGP マックス・フェルスタッペン(レッドブル・ホンダ)が2位を獲得

 レース後の記者会見で、無線でチーム戦略を批判したことを次のように説明した。

「僕たちには、彼らがやっていることをコントロールする力はない。つまるところ、自分たちがやっていることしかコントロールできない。だったら、自分たちが可能な限り最速でチェッカーフラッグを受けられる戦略を実行したほうがいい」

 しかし、スペインGPの舞台であるバルセロナ-カタロニア・サーキットはコース上でのオーバーテイクが非常に難しいサーキット。単独で走っていれば、最速でチェッカーフラッグを目指す戦略を採ってもいいが、カタロニア・サーキットで最も重要なことはトラック(コース上での)ポジションだ。

 フェルスタッペンが2回目のピットストップを行う直前のボッタスとの差は1.6秒。ボッタスの2回目のピットアウト直後のラップタイムは、ピットストップ直前のフェルスタッペンより約1.2秒速かったから、アンダーカットされていてもおかしくなかった。

 この日のレッドブル・ホンダの戦略を、メルセデスのトラックサイドエンジニアリングディレクターを務めるアンドリュー・ショブリンは、次のように称賛した。

「中盤のスティントで、バルテリがフェルスタッペンのアンダーカットを狙える小さなウインドウ(チャンス)があった。しかし、それをレッドブルが素早くカバー(ピットイン)してきた。彼らがレース戦略に長けていること、決して我々に楽をさせてくれないことを痛感したよ」

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