コロナ感染中に出産、母と主治医はどう対処した 2週間赤ちゃんに会えず「安全な出産できるが、感染防御徹底を」

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新型コロナウイルスに感染した妊婦へのケアについて語る藁谷医師(京都市上京区・京都府立医科大付属病院)

 新型コロナウイルスの感染中に女児を出産した京都府内の30代の女性が、18日までに京都新聞社の取材に応じた。帝王切開で出産した後も「感染を避けるため約2週間は赤ちゃんに会えなかった。周囲の助けでなんとか乗り越えられた」と明かす。女性は同居する家族の発症後に感染が判明した。主治医は「感染中でも安全に出産できるが妊婦の負担は大きい」と指摘し「妊婦だけでなく周囲も感染防御の徹底が必要だ」と呼び掛ける。

■妊娠の経過順調、マスクや手洗い徹底も…

 幼い長男と夫と3人暮らしの女性は7月下旬に長女を出産する予定だった。経過は順調。しかし新型コロナに用心し外出は極力控え、どうしても必要な買い物などへ行く時はマスクや手洗いを徹底した。

 同月上旬、夫はせきが多くなり全身のだるさも訴えた。夫は仕事の取引先で感染者が出ていたこともありPCR検査を受けた。結果は陽性で、すぐに入院となった。その頃、女性も喉に違和感を覚えた。さらに「普通の風邪と違って、熱がないのにものすごくだるさがあった」。長男とPCR検査を受けたが、女性だけが陽性だった。

 「妊娠中の胎児への感染は低いと聞いていたが、手術を受けたこともないし帝王切開になるかもしれず不安だった」と、女性は振り返る。結果が判明した翌日、京都市上京区の京都府立医科大付属病院の新型コロナ専門病棟へ入院した。長男は親族に預けた。

■入院、すぐに帝王切開

 帝王切開は入院した次の日。「心の準備も整わないまま、あっという間に決まった」と語る。本来は夫の立ち会い出産で写真撮影もして…と計画を練っていた。「コロナがなければ普通に出産できたのに」。やり場のない悲しみがこみ上げた。

 帝王切開での出産は無事に終了した。局所麻酔での出産のため女性は意識のある状態だったが、感染を防ぐため赤ちゃんの顔を見ることはできなかった。元気な産声だけが耳に残ったという。

■赤ちゃんとは別病棟に入院、孤独感ぬぐえず

 出産後も、女性は新型コロナ患者専用の隔離病棟で過ごした。同病院の別病棟に入院する女児の様子は動画や写真で毎日確認できた。だが隔離された病室では看護師の入室も限られる。電話で夫と会話をするものの孤独感は拭えなかった。帝王切開による傷の痛みに加え新型コロナ感染のためか、たんの絡むせきもあった。「感染判明から出産まではバタバタしていたけれど、産んでから現実が迫ってきた」と話す。薬による治療はしなかったが徐々に症状は落ち着き、手術から約10日後に女性は退院できた。

 さらに約1週間後、新型コロナの陰性が確認できた赤ちゃんが退院した。「本当に『かわいい』という言葉しか出ない。やっぱり動画などで見ている感じとは違いました」。初対面の時の気持ちを、声を弾ませて語る。その日のうちに初めて授乳もできた。現在は夫も退院し、家族4人で生活できる幸せをかみしめている。
 

■原則は帝王切開になる

 妊婦が新型コロナに感染した場合、どんな事態が想定されるのか。今回の女性の主治医・藁谷深洋子医師=写真=は「新型コロナウイルスに感染している妊婦は原則として帝王切開になる」と説明する。通常の分娩(ぶんべん)は息んだり時間がかかったりするので新生児や院内に感染が広がるリスクが高まるからだという。また「今回は妊娠38週でいつ陣痛が始まってもおかしくなかった。速やかな帝王切開が必要だった」と話す。

 帝王切開では、手術ガウンに加え高機能のN95マスクやフェースシールドを装着、手袋を二重にし感染防御を徹底した。帝王切開に当たるスタッフに加え、感染対策専門の看護師2人が参加し計9人が手術室に入った。室内外の出入りを最低限にするため、妊婦への手術前にシミュレーションを1時間半かけて実施した。

■母子が離れる間の精神的ストレスも課題

 出産自体に問題はなかった。帝王切開の前後を含め、妊婦が手術室にいたのは約2時間。ただ「出産後に赤ちゃんが感染してはいけないので、お母さんとの対面なしで室外に連れて行かざるを得なかった」。藁谷医師は語る。

 新型コロナ以外でも、妊婦が病原体に感染しているケースは経験している。それらの場合は針刺し事故などに気を付ければスムーズに実施できる。だが「コロナは飛沫(ひまつ)感染する上、治療法がないのが難しい」と指摘する。出産後、母子が離れている期間の精神的ストレスへの配慮も必要で、今後は改善策も模索するという。

 藁谷医師は「今回は、赤ちゃんの安全を最優先に母親にリスクを取ってもらった。新型コロナに感染した状態での出産の負担は大きいので、妊婦の家族は特別に感染対策に気を配ってほしい」と訴える。