現FIA規格の一歩先を行く設計思想を取り入れた童夢F111/3【フォーミュラ・リージョナルの現在と未来】

 フォーミュラ・リージョナル・ジャパニーズ・チャンピオンシップ(FRJ)の現在と未来について、今回はコンストラクターからの視点をお届けする。車両を開発・供給する株式会社童夢で、童夢F110(FIA-F4車両)や童夢F111/3(FRJ車両)のカスタマー・サポート担当を務める有松義紀氏の視点から語ってもらった。

「2020年に予定していた童夢F111/3は、16台すべてのデリバリーを開幕前に完了しました。追加購入のお問い合わせもあり、若干数の2020年後期デリバリーの調整も始めました。2021年のデリバリーに関しては9月ごろにご案内できると思います」と言い、滑り出しは順調のようだ。

 ちなみに童夢F111/3をどういったユーザーが購入しているのかを問うと「購入形態が異なるので一概には言えませんがチーム(ガレージ)と個人が半々」だという。

 あらためて書き記せば、フォーミュラ・リージョナル(FR)は国際自動車連盟(FIA)によって車両価格の上限が決められている。たとえば、国産部品を多用した童夢F111/3シャシーにアルファ・ロメオ・ブランドを冠したイタリアのアウトテクニカ・モトーリ製1.75リッター直列4気筒ターボ・エンジンを搭載し、フランスのサデブ製トランスミッションと、イタリアのマレリ製エレクトリック・コントロール・システムを使用した場合の車両総額は約1,290万円(税別・以下、数字に関しては同様)になる。ただし、もちろん車両を買っただけでは走らせられない。

「我々童夢はFRJに参加するチーム/ドライバーへ向けて、メンテナンスやセットアップといった作業に必要な工具や機材や具品などを、まとめてそろえられるパッケージとして『241万円の“エキスパート”と84.6万円の“エントリー”というスタートアップ』というものを用意しました」

「チーム/ガレージにはすでに手元にある工具や機材や部品との兼ね合いもあるでしょうし、必要に応じて選んでいただけます。スペアパーツについても『279万円の“エキスパート”と94万円の“エントリー”』を用意しました。前者はシーズン中に追加購入なく戦えるだろう数量で、後者は必要最小限の数量となります」

「消耗品としては、ドライ・タイヤが1大会3セット、ウェット・タイヤがシリーズを通して3セット、油脂系は1大会ごとに交換、レース用ガソリンが1大会100リッター、タイヤ交換などに使う窒素が1大会3本、スキッド・プレートやブレーキ・パッドとブレーキ・ディスクの定期交換を想定すると、年間で最低715万円ほどが必要です」

「このほか参加経費としてシリーズ年間エントリー・フィーが約242万円。チーム体制によっても差はありますが、これとは別にレース期間中のドライバーやスタッフの交通費や人件費などに加え、ガレージでのメンテナンス料が追加となります」

約4台分の部品を搭載するトランスポーターが大会毎に待機している

 現状、童夢F111/3の採用先・販売先は日本だけとなっているが、今後海外での採用・販売戦略はあるのか。フォーミュラ・リージョナル規格の車体としては、イタリアのタトゥースやフランスのリジェが有名だが、海外での採用を目指すうえでは、それらのコンストラクターと比較した童夢F111/3の優位性という部分も重要になってくるはずだ。

「現在はFRJの初年度の販売とサポートに注力していますが、すでに問い合わせはあります。今後も新たなリージョナル・シリーズが出てくる可能性は期待していますが、いまは新型コロナウイルスの影響もあり、未来を語るに適当な時期ではありません」

 他のコンストラクターの車体と比較した、一番の違いは「童夢独自の諸元思想“DOME ERGONOMICS V1.0”を採用したサバイバルセル(モノコック)」だと有松氏は言う。

「これはFIAが検討している技術規格に先んじるもので、FIA規格としては現在制定作業中の第2世代FIA-F4(2021年11月以降)から採用されるでしょう。つまり、現時点ではF111/3だけがフォーミュラ・リージョナル車両としては新FIA規格に最も近い車両として運用できます」

 この新FIA規格で変更となった部分はHALO(頭部保護装置)の導入でドライバーのコックピット内の一部の3次元スペースの使用方法が厳しくなったことが挙げられる。現状の規格では、低身長あるいは高身長のドライバーがHALOが搭載されている車両にフィットしづらいという問題が指摘されているのだ。だが、童夢F111/3では身長に対する柔軟性やアジア人特有の体型もカバーできる独自のドライバー・スペーシングを実現するデザインを盛り込んだという。

 また、ジュニア・カテゴリーのHALOはF1等とは異なり、鉄製で作られるのが主流だ。重量のあるHALOが車体の高い位置にあるということは、重心位置が高くなり、コーナーリング時のバランスに影響を及ぼしてしまう。それを最小限に抑えるため、童夢は“カウンター・ウェイト・システム”という手法を採用した。

「車両上部構造体への重量増の影響を低減させるため、車体重心付近の底部に重りを設置する手法です。これにより、コーナリング時の動的バランスの悪化(ロールなど)を最小限に留めることが可能になります。」

 童夢F111/3のシャシーに関してはドライバーたちからも好評を得ているようで、F3アジアでタトゥースT-318を走らせた経験を持つDRAGON、金丸ユウ、高橋知己らは「(童夢F111/3は)腕や肩回りに余裕がある」「タトゥースT-318は着座位置、ペダル位置、ステアリング位置がアンバランスで、思うようなドライビング・ポジションが採れない。でも、童夢F111/3は満足の行くドライビング・ポジションが可能」「タトゥースT-318に比べると童夢F111/3はステアリング操作が軽い」など、童夢製シャシーの優位性を実践で感じているようだ。

■FRJはまったく新しい国内シリーズとして認識してほしい

 FRJと全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権(SFL)の棲み分けに関しては、どちらが上か下かではなく、全日本F3選手権のスタイルを継承した形のSFLに対して、FRJを見ている側がどのように受け止めるべきか、疑問に思う部分も少なくないだろう。これに対して有松氏は「まったく新しいシリーズとして認識してほしい」と言う。

「童夢は2017年に始まったFIAのフォーミュラ・カテゴリー再編議論に当初から加わっており、各コンストラクターとともに喧々諤々を行って来ました。我々はコンストラクターとしてFIA-F4と同じくFIAの規定に沿った形で車両を製作することで、欧米のコンストラクターと同等以上の技術レベルを維持したいと考えています」

「FIA-FRという規格は、パワーウェイトレシオもタイヤの寸法もエンジンの特性も、いままで存在しなかったレンジにあります。ゆえに、(SFLと比較して)どちらがどうという話ではなく、まったく新しいシリーズとして認識していただければと思います」

「今後はまず、新型コロナウイルスの影響が早期に解決されるのを望んでいます。シリーズ最終大会まで、無事にレースができる環境が続くようにと祈っています。そして、我々も参加者を全力でサポートできるように努力致します」

「そうしたなかでシリーズが成長していくことを望んでいます。今後、国内外のレース活動におけるステップアップの過程としてFIA-F4車両の童夢F110と、FIA-FR車両の童夢F111/3がその一助になれればと願っています」

 2年先に開発・供給されたタトゥースT-318の欠点を丹念に潰しながら童夢F111/3は開発・供給されただけでなく、童夢の有松カスタマー・サポート担当が前述したとおりFIAの規定に沿いながら一歩先を行く設計思想を採り入れている点は評価できる。

 一方、現状の国内フォーミュラレースは全日本スーパーフォーミュラ選手権を筆頭に、全日本スーパーフォーミュラ・ライツ選手権、FIA-F4選手権というピラミッドが構築されている。そのなかでFRJがどのようなポジショニングを獲得して発展していけるのかというた点にも興味が尽きない。

270hpを誇るアルファ・ロメオ1750 TBiターボ・エンジンを積んでいる
別売のトラベルキットによりコンパクトに車両の運搬が可能
フォーミュラ・リージョナル・ジャパニーズ・チャンピオンシップ第3戦スタートの様子

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