技術と頭脳で積み重ねた234セーブ 日米で活躍した小林雅英氏が明かす秘密の“魔球”

日米通算234セーブを挙げた小林雅英氏【写真:編集部】

ロッテ、米大リーグ・インディアンスで活躍、たまに使ったある“変化球”

かつてロッテなどで絶対的守護神として活躍し、日米通算234セーブを誇った小林雅英氏。実は持ち球は基本的にストレート、スライダー、シュートの3種類だけで、抑えの代名詞ともいえるフォークボールは不得手で、試合では使っていなかった。それでもクローザーの重責を果たすことができたのは、秘かに“魔球”を投げていたからだった。

プロ野球の試合を見ていると、投球がワンバウンドし、ボールが汚れるたびに、すかさず球審が新しいボールと交換するシーンを目にする。小林氏は「最近は投手がボールをよく替えますよね。僕は現役時代、ワンバウンドしたくらいなら、そのまま使っていました」と振り返る。そして「審判の方から渡されてしまったら仕方がありませんが、投手が自ら交換を要求するシーンを見ると、僕は『もったいないことをするなぁ……』と思うんですよ」とあきれたような表情を浮かべるのだった。

そこに“魔球”の秘訣があった。「僕はわざとワンバウンドを投げて、ボールに泥や傷をつけ、またその球を投げることさえありました。それも1つのテクニックです」と悪びれることなく言い切った。

ワンバウンドして泥がついたり、ファウルチップや凡打、安打で変形したボールを投げると、投げた本人にも予想がつかない、不規則な変化をすることがある。「なるべくそういうボールを返してもらって、続けて使うようにしていました。打者のイメージにない変化をしてくれれば、打ち取れる可能性が上がりますから」と説明した。

小林氏の場合、こういうボールで低めに投げたシュート、スライダーは、打者の手元でスッと落ちることや、内角に変化することがあった。「それほど大きな変化ではありませんし、きれいなボールと同じ変化しかしないこともありましたが、いつもと違う変化をしてくれたらおもしろいな、という期待感を持って投げていました」

野球規則では、投手がボールに唾液、泥など異物をつけること、ボールをグラブやユニホームで摩擦することを禁じているが、プレーで使ったボールをそのまま使用するのは特別、問題視はされていない。小林氏は「故意にやれば反則ですが、流れの中でわざとワンバウンドを放ったり、ファウルボールをそのまま使うことは、テクニックの1つだと思っています」と話す。

実際、小林氏は現役時代、捕手には「わざとワンバウンドを放ることもある。簡単にボールを替えないで」と伝え、バックを守る野手にも「ボールを極力返して」と頼んでおいた。

女房役が忘れて審判にボール交換を要求してしまった時は「ふざけんな!」

強打の捕手で当時よくバッテリーを組んだ元ロッテ・橋本将氏が、ワンバウンドしたボールの交換を球審に要求した時には、「ふざけんな! こっちはわざと放ってるんだよ。打者や審判が言うならともかく、おまえが替えてどうするんだよ!」と怒りをあらわにしたことがあった。橋本氏が「どんな変化をするか、わからないんですもん」と捕球が難しくなることを伝えると、小林氏は「それを捕るのがおまえらの仕事!」と言い返したというから、まるで漫画のようなやり取りである。

「そうでなくても、僕はナチュラルにボールが動く方でしたし、本拠地・千葉マリンスタジアム(現ZOZOマリンスタジアム)特有の強風の影響も受けた。捕手にとっては捕りにくかったでしょうね」と茶目っ気たっぷりに笑った。

中にはニューボールを好む投手もいる。「きれいにスピンを効かせてホップするように見える速球を投げるピッチャーは、ボールに傷がついていると、それが難しくなります。それに、常に変化の幅をきっちり把握して投げたがる投手もいます」と解説。ただ、あくまで小林氏自身は「自分のイメージ通りの球を投げることも大切だけれど、打ち取ることが何よりも優先」との考えから、“不規則魔球”を投げ続けていた。

最近は反則投球を防止するためか、以前よりも球審が積極的にボール交換を行っているようにも見える。「審判サイドに、そういう共通意識ができているのかもしれませんね」と、どこか寂しそうな小林氏。ボールの交換を極力抑える投手は、“地球にやさしい”ともいえそうだが……。(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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