『女の園の星 1』和山やま著 奇妙な味わい

 女子校では若い男性教諭が生徒から舐められがち、という図式は、共学育ちでもなんとなく理解できる。漫画家・和山やまの新刊は、そんなある教師と生徒、そして同僚の日常が描かれた物語だ。

「星先生」はとある女子校の国語教諭。2年4組の担任だが、クラスの生徒たちは学級日誌の備考欄で絵しりとりをして遊ぶ程度には、彼のことを見くびっている。また星自身も、その備考欄の絵しりとりが今日は何かを楽しみにしている程度に、飄々とした人物だ。感情の読めない表情、不健康そうな唇、毎日着ている洋服は、家に沢山常備しているというスタンドカラーの白いシャツ。ミステリアスな「星先生」の人となりが、物語が進むにつれ徐々に明かされてゆく。

 授業中、上階のベランダから犬が落ちてきたり(リードに繋がれていたため無事だった)、その犬、セツコを2年4組で預かることになったり、すると生徒たちがセツコを勝手に「タピオカ」と改名したり、挙句タピオカの顔に油性マジックで眉毛を描いたり(洗ったが落ちなかった)、生徒に助言を求められ彼女が授業中に描いていた漫画を読んだら、登場人物がやたら死ぬ話だったり……。

 冷静に読んだらエピソードも会話も全体的にシュールな、控えめに言ってもヤバめのものが多い。しかしそれらが楽しく読めてしまうのは、パッと見陰鬱な星が持つ、不思議な魅力によるところが大きいのではないだろうか。

 生魚が苦手で、職員室で隣の席の小林先生に「寿司食えないなんて人生損してる」と言われたら、「例えば小林先生のご両親がお寿司に殺されたとします」と話しだす。大学生のときに漫画研究会に所属していた星だが、サークル内にカップル何組かできたことに居心地の悪さを感じ、最終的に「マン・ケーン教という教団で僕が教祖となり、大学の全サークルを牛耳る漫画を描き上げて卒業し」たという。犬の眉毛の犯人を探すとき「セツコに……」と言ってから「タピオカに」と訂正し、上のクラスの副担任と話すとき、「タピ」と言いかけて「セツコが」と言い直す。

 泥酔するとよく食べよく喋りよく笑い、箸が転がっても笑った後は、しばらくするとひたすら謝る、謝り魔になる。

 物語が進むにつれ、自身が持つ意外な一面を惜しみなく見せるようになるのだ。

 大事件も大号泣も特にない、くだらない日常が淡々と描かれる、オフビートな笑いにあふれた一冊。その作品に一貫しているのは、人間臭さがもたらす意外性のおかしみ、可愛げだ。シュールな展開と登場人物のチャーミングな一面。それらが掛け合わされた物語はなんとも奇妙な味わいで、癖になりそう。

(祥伝社680円+税)=アリー・マントワネット

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