ド緊迫の86分! 壁の外は死の世界……戦地の密室スリラー『シリアにて』が描く凄惨な現実

『シリアにて』© Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films

そんじょそこらのスリラー映画のレベルじゃない“日常”の恐ろしさ!

上映時間86分、延々と続くとてつもない緊迫感に打ちひしがれた。

舞台は、いまだに続いている内戦に揺れるシリアの首都ダマスカス、のアパートの一室。そこでひっそりと暮らす人々の24時間を描いた本作は、もはやそんじゃそこらのシチュエーション・スリラーをも凌駕する生きるか死ぬかの衝撃の物語だ。

『シリアにて』© Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films

オーム(ヒアム・アッバス)は、戦地に行った夫の帰りを待ちつつ、3人の子供と義父、そして隣人であるハリマ(ディアマンド・アブ・アブード)一家と身を寄せ合って暮らしていた。アパートという名のシェルターの外は、出歩く人々を狙い撃ちするスナイパーが物陰に張り付き、爆撃も頻繁に行われている。インターネットやテレビで情報を収集しつつ、できることはただじっと息を潜めるだけ。トイレの水さえも節水しなくちゃいけない状況はストレスフルこのうえない。

『シリアにて』© Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films

そんな中、ある朝ハリマの夫がとある事情でアパートから出てしまう。しかし、外に出た途端スナイパーの凶弾に倒れてしまった。ほどなくして、不穏な足音とともに、強盗らしき男たちもやってきて……。

シンプルかつ過酷! ひたすら戦火の中で暮らす人々の過酷な1日を映し出す

シリア内戦の複雑な状況や瓦礫の山や戦闘などを描くことはなく、映し出されるのはただただシンプルに戦火の中で暮らす人々の過酷な1日。気丈に振る舞うオームがふと独りになったときに見せる弱々しい表情や、一見緊張感がなさそうなのに、敏感に大人たちの心情を察知する子どもたちの姿が痛々しい。

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監督・脚本を務めたフィリップ・ヴァン・レウは、もともとは撮影監督。イングマール・ベルイマン監督作品やアンドレイ・タルコフスキー『サクリファイス』(1986年)の撮影で知られるスヴェン・ニクヴィスト、そして『明日に向って撃て!』(1969年)や『アメリカン・ビューティー』(1999年)などの撮影監督コンラッド・L・ホールに師事し、2009年にルワンダ虐殺を描いた『The Day God Walked Away(英題/日本未公開)』で監督デビューし、本作が2本目。ダマスカスに住んでいた友人の父親が、アパートに3週間閉じ込められたという実際のエピソードから着想を得たという。

日本ではほとんど報道されないシリア内戦だが、コロナ禍でステイホームな今、オームたちの生活が我々にだっていくらか共感できるはずだ。

『シリアにて』© Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films

文:市川力夫

『シリアにて』は2020年8月22日(土)より岩波ホールほか全国順次公開

『シリアにて』© Altitude100 – Liaison Cinématographique – Minds Meet – Né à Beyrouth Films

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