<いまを生きる 長崎コロナ禍> 訪問美容師 働き方模索 安全安心第一、利用者の生活に張りを

 美容室などに勤務せず、個人宅に出向く訪問専門の美容師。県と長崎、佐世保両市の統計から、県内では計約30人が活動しているという。その一人が、新上五島町曽根郷の楠本美咲さん(29)。新型コロナウイルス禍の中でも、お年寄りらにおしゃれを楽しんでもらい、生活に張りが出るようにと、感染対策に神経を注ぎながら依頼主の元に足を運んでいる。
 「おばちゃん、こんにちは」。7月のある日、楠本さんは同町北部の津和崎郷、真倉シゲ子さん(78)方を訪ねた。畳敷きの居間に進むと、髪の毛が落ちてもいいようにブルーシートをテキパキとセット。「長さはどうする?」と声を掛けながら、はさみを動かした。
 カットとパーマで約2時間の施術。その間、楠本さんは一工程終わるたびに持参したアルコールスプレーで器具を消毒した。鏡で出来具合を確認し「すっきりして若返ったような気分」とほほ笑む真倉さんに、楠本さんも満足そうな表情を浮かべた。

真倉さんの髪を切る楠本さん。作業しながらも終始笑顔はたえない=新上五島町(撮影のためマスクを外しています)

 密接した距離で人の髪や肌を直接触る美容師や理容師は、どうしても3密回避には限界がある。その分、楠本さんは手指や道具の消毒をこれまで以上に念入りに行い、訪問先ごとに手袋を替えるなど対策を徹底している。ただ、「夏場のマスク着用は暑いし、消毒用の備品代がかさむのが悩みの種」と打ち明ける。
 楠本さんは同町出身。長崎、佐賀両市の美容室で勤務した後、2016年に帰郷し、翌年9月から訪問専門の美容師を始めた。
 町内各所に美容院はあるが、体力が落ちた高齢者はなじみの店であっても足が遠のきがちという。自宅まで来てくれる訪問美容師の潜在的なニーズは多く、100人を超す楠本さんの顧客の7割は高齢者だ。
 そんな楠本さんの仕事にも新型コロナは影を落とした。特措法に基づく緊急事態宣言が出た後の4月後半ごろには予約が激減。しばらくして回復はしたが、逆に、2週間以内に島外に出たかなど顧客の行動歴を確認して楠本さんの側から断ることもある。
 さらにコロナ禍の前は、顧客のお年寄りらと施術後も20分ほど雑談していたが、会話による飛沫対策のため、なるべく早く切り上げるようにしている。「1人暮らしで、私との会話を楽しみにしてくれている方もいる。その時間を取れないのは私としても寂しく、申し訳なく思う」
 この状況がいつまで続くのか、不安は尽きない。「今は不便に感じるが、これが日常になっていくのかもしれない。自分もだけど、顧客の安全安心を第一に、美容師としてやれることをやりたい」と、ウィズコロナ時代の美容師の働き方を模索している。

 


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