今の時代だからこそ「直筆で…」 ヒロド歩美アナが球児に綴った約450通の手紙

球児からの色紙を手にするABCテレビ・ヒロド歩美アナ【写真提供:テレビ朝日】

選抜出場予定だった32校から始まり…返事をもらった学校も多数

今夏、各都道府県の高校野球独自大会でも数々のドラマがあった。取材を進めていくと、いくつかの学校に届けられていた“贈り物”に気が付いた。ある高校のグラウンドのベンチにあった直筆の封筒と手紙。差出人の名は「ABCテレビ ヒロド歩美」と書かれていた。真意を聞く機会に恵まれ、話を聞くと、ヒロドアナはこれまでに約450通を書いたと言い、今もまだ書き続けていた。

選抜の中止が決まった時、ヒロドアナはそれまで精力的に行っていた高校野球取材を自粛することにした。その時、福島・磐城高校へ取材に行くことを決めていたが、残念ながら断念することにしたという。

「行きたくても行けませんでした。私も悔しかったです。相手のことを思っても、行ってはいけないと思いました」

そこで考えたのが手紙を書くことだった。今の気持ちなどをストレートに記した。

磐城高校からの返事は早かった。前を向いている部員からのメッセージをもらった。メンバーからの手紙も直筆だった。

「お手紙が返ってきた時は、テンションが上がりましたね。私は人の直筆が好きです。文字を書いた方が、気持ちがより伝わると思っています」

まずは、選抜に出場する予定だった32校に手紙を送った。その後、自分が取材に行ったことのある学校、ニュース記事などで目に留まった学校へ出来る限り、ペンを走らせた。それが今の自分にできることと考えた。

各学校からも手紙やメールの返事が来た。写真や動画を添付してくれるメールもあった。「嬉しかったです」「励みになりました」「夏、頑張ります」という力強く、頼もしい言葉が多かった。SNS上にアップした学校や、ベンチに入れ、お守り代わりにして、独自大会を優勝した学校もあった。

手紙の主な内容は、挨拶文から始まり、苦難にぶつかった時にその壁を乗り越えて成功した元プロ野球選手のエピソードが綴られていた。「頑張ってください」「元気を出してください」という文言はない。今回の壁の高さは、当事者にしかわからない。安易な言葉はかけられないし、かける資格もないという思いだった。

「これからも書けるところまで書きたいと思っています。今、受験勉強の時よりも文字を書いていると思います」

自宅で6時間、書き続けたこともあった。これからも出来る限り、続けていくという。右手の皮がめくれたところや、ペンだこができたところを見つめながら、ヒロドアナは笑った。

番組取材で向かった長崎商でヒロドアナ号泣…ブラスバンド部の音色と選手の行進に感動

手紙を送った後、実際に取材に訪れた野球部もある。5月20日の夏の甲子園中止を受け、テレビ朝日系「報道ステーション」のトップニュースで取り上げられた長崎商だ。今年で創部100年を迎える伝統校の部員たちが中止を受け、グラウンドに泣き崩れていた姿は印象的だった。

彼らのその後が知りたくなった。ヒロドアナとスタッフは長崎へ向かった。副主将の堺直孝くんをはじめ、部員たちがあそこまで号泣していた理由を取材した。「長崎商の3年生全員から手紙の返事をいただきました。甲子園の中止を受けて『親に謝罪した』という子がいたのがとても印象的でした」。他人には分からない、固く結ばれていた家族との絆があったからだった。一人一人の背景を知れば知るほど、胸が締め付けられる思いだった。

また、球児だけでなく、ブラスバンド部やチアダンス部の生徒たちも、活躍の場を失っていた。ヒロドアナが取材した日は、長崎独自大会の開幕前日。ブラスバンド部とバトン部による野球部の激励会が行われた。生徒たちが先生に直訴し、この会は実現。「栄冠は君に輝く」を演奏し、その奏でるメロディーに合わせて、野球部員が体育館を行進した。

聞くことができないと思っていた野球応援の音色。球場のドラマが蘇ってきた。その演奏に応えるように一生懸命、行進する選手たちの姿にヒロドアナは涙したという。それくらい素晴らしい光景だった。

テレビ朝日系高校野球特番「2020 君だけの甲子園」(8月23日よる9時~)の取材を通じ、同校の野球部だけでなく、高校生たちが向き合った現実、家族の思いが伝わってきた。ヒロドアナは特別なこの夏の取材や手紙を大切に心にしまっている。

「球児からいただいた手紙をよく見ると、ちゃんと下書きをしていたり、清書していたり、シャープペンシルで書いては何度も消したりしているのがわかります。頑張って書いてきてくれているんだなという形跡が見えました」

失敗してはトライをし、一生懸命、ひたむきに書かれた球児の手紙。それはまるで野球と向き合った2年半の道のりのようだ。各都道府県の独自大会や、甲子園交流試合など、彼らが戦ったという証はそれぞれの胸にしっかりと記されている。(Full-Count編集部)

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