ステーションワゴンの逆襲なるか、新型SUBARU「レヴォーグ」試乗でわかった実力

2019年の東京モーターショーでコンセプトカーとしてお披露目され人気を集めたスバルのステーションワゴン「新型レヴォーグ」。8月20日より予約が開始されました。同社の最先端技術を搭載するレヴォーグ、10月15日の発表(予定)前に“プロトタイプ”という形で試乗する機会に恵まれました。新たに搭載された先進安全技術である「アイサイトX」の実力は驚くべきものでした。


全てを刷新、シンプルなグレードで構成

今回6年ぶりのフルモデルチェンジとなるレヴォーグですが、現在のスバルの国内販売を牽引するモデルでもあります。

新型レヴォーグのグレード構成はベーシックながら充実した装備が魅力の「GT」、中核グレードで上級装備を搭載、最も販売数が見込める「GT-H」、そして走行性能を高めた最上位の「STI Sport」の3つになります。ただし、これに後述する新機能である「アイサイトX」を標準搭載した「GT EX」「GT-H EX」「STI Sport EX」が設定され、トータルでは6グレードをラインナップします。

駆動方式は全てフルタイムAWD。搭載するエンジンは新開発の1.8L水平対向4気筒直噴ターボにリニアトロニックと呼ばれるCVTを組み合わせます。エンジンに関しては前モデルが1.6Lと2Lの2種類が設定されていましたが、今回は環境性能(燃費)と走りの良さを両立させるためにちょうどその中間の1.8L、最高出力130kW(177PS)/5,200-5,600rpm、最大トルクは3L車の並み300Nm(30.6kgfm)/1,600-3,600rpmを発生します。またこれまでスバル車は燃費が少々厳しいと言われてきたことに対し、JC08モード燃費は16.6km/L(WLTCモード燃費は13.7km/L)、さらにレギュラーガソリン仕様とすることでおサイフにも優しくなっています。

新コンセプトによるデザイン

新型レヴォーグのボディサイズは全長4,755×全幅1,795×全高1,500mmと前モデルと比較してもそれほど変わりません。これは日本の道路事情を考えたサイズでもあり、取り回しのしやすさなども考えられています。

リアバンパーの両サイドにはスバル初となるエアアウトレットを搭載します

スバルにはデザインコンセプトとして「ダイナミック&ソリッド」というものがあり、昨今のスバル車はこれに基づきデザインされています。そしてレヴォーグはそれをさらに進化させた「BOLDER(ボルダー)」というコンセプトを打ち出してきました。

BOLDER=大胆、の意味の通り、スバルが顧客に提供する価値や、クルマそれぞれが持つ個性をより“大胆”に際立たせるという思いを込めているそうです。

基本的なデザインは前モデルを踏襲しつつ、ヘッドランプ周辺の精悍なデザインや特徴的なヘキサゴングリルなど全体からは前モデル以上にスポーティさを感じることができます。特にプロトタイプの実車を目にすると写真ではわかりづらい塊感やキレの良い造形を感じることができます。

クオリティアップした室内

インテリアに関しても後述する新しいインフォテインメントシステムやデジタルコックピットが話題となっていますが、ドアを開けて着座すると横方向への拡がりを感じながら適度に包まれているような安心感があります。これは運転席だけでなく助手席に座っても同様で、人が触れる部分も含め細部にわたる質感が向上している点も大きな魅力と言えます。

驚いたのはシートの作りの良さ。電動調整機能も搭載しています

また後席に関しても十分な空間と共にリクライニング機構付きのシートを操作すればさらに快適性は向上します。これはいいな、と感じたのがこのリクライニングシートのレバーがシート両側のスペースに精緻に配置されている点です。少し分かりづらいかもしれませんが、リクライニングレバーはコスト低減に使われることがあり、シートの中に「引っ張る紐」のように埋まっていたり、レバーがあったとしても非常に操作がしづらいものです。

しかしレヴォーグは着座を邪魔することなく、スッと手を動かした脇に引きやすい形状のレバーを搭載しています。こういう部分こそ、スバルがこれまでステーションワゴンで培ってきたノウハウが生かされていると感じました。大げさな言い方ですが、ここだけ見ても新型レヴォーグは素晴らしいと感じるくらい「気が利いている」のです。

圧倒的な荷室スペース

ステーションワゴンと言えばやはり荷物の積載量がポイントとなります。前モデルも圧倒的とも言える積載量が自慢でしたが、新型はさらにスペースを拡大、特にリアゲートの開口幅や開口高を拡大することで使い勝手も向上しています。

またフロアの下にもサブトランク、いわゆる“床下収納”が採用されていますが、この容量も従来より+29Lの69Lと大容量化することで普段あまり見せたくない荷物などの収納にも便利、トータルの収納量は561L(前モデルより+39L)となり、これは大型トランクケースを4個、またはゴルフバッグ4個が積載可能。SUVに負けない機能性に優れるスペースを確立しました。

新型「アイサイトX」の知能化に驚く

スバル「アイサイト」、テレビCMなどで「ぶつからないクルマ」のコピーでもおなじみの先進技術の総称です。

今回大きく進化した「アイサイトX」を実際発売前に試すことができました。茨城県にあるJARI(日本自動車研究所)の城里テストコース内にある外周路に設定されたプログラムを体験するものです。

アイサイトはフロントガラス周辺に設置されたステレオカメラを使って物体を検知しますが、ベースとなるアイサイト自体も広角化した新型ステレオカメラや左右速報に配置されたレーダーを併用することで対向車や自転車、歩行者なども検知、さらにカメラで見えない死角もレーダーにより検知することでプリクラッシュブレーキを作動させます。

そして進化したアイサイトをさらにレベルアップしたのが今回最大の注目ポイントである「アイサイトX」です。

これには準天頂衛星“みちびき”を使った高精度GPSにプラスしてこれからの自動運転時代に絶対必要となる3D高精度地図データを組み合わせています。

これにより渋滞時にはステアリングから手を離してもクルマを追従する「渋滞時ハンズオフアシスト」や「渋滞時発進アシスト」、またウインカー操作に応じて車線変更を行う「アクティブレーンチェンジアシスト」、さらに驚いたのがカーブ前の速度制御だけでなく、高速道路の料金所前で速度を制御する機能まで組み込んだことです。

まるでクルマに知能が宿ったような走り

今回前述したテストコース内には特別に3D地図データを組み込み、ETCゲートをイメージしたポイントを設定しました。

ここに接近するとメーター内に「料金所」という表示が出ると同時にETCゲート通過時の推奨速度である20km/hまでスムーズに減速し通過、その後は設定していた速度まで再加速します。

またカーブ前速度制御でも3D地図が活躍します。ACC(アダプティブ・クルーズ・コントロール)の速度を120km/hに設定しカーブに接近すると進行方向にカーブがあることを表示、その後はカーブにさしかかる手前で減速を開始します。正直自分のスキルでは「いやこれはヤバイだろ」と感じる中でもアイサイトXは上手く車速と操舵をコントロールしてくれます。

この他にもメルセデス・ベンツなどでは搭載済みのアクティブレーンチェンジアシストも後方からの車両の接近を高精度で検知し、無理な場合はシステムは作動しません。逆に作動した際の動きも非常に滑らかであったことにも驚きました。

レヴォーグはドライバーを“見ている”

「渋滞ハンズオフドライブ」は他社でも採用されていますが、これまでは渋滞時に一度停止すると再発進時にはスイッチを押すか、アクセルを軽く踏み込む必要がありました。しかしアイサイトXはそれらを行わなくても全て自動で行ってくれます。

渋滞時のハンズオフ走行は非常に動きがスムーズです

そして一番今回驚いたのが搭載される「DMS(ドライバーモニタリングシステム)」との連携です。このシステム自体はフォレスターから搭載された機能ですが、今回は連携を行ったことが大きな進化です。

スバルのエンジニアから指示をもらい、停車時に外を見る、つまり「よそ見」をしてみました。するとシステム側が顔認識を行い、警告音がなり、発進しないのです。

コロナ禍で行われたテストのため、万が一を想定して今回はテスト中のみマスクを外しましたが、マスクに関しても紙製のものならばほぼ大丈夫とのこと。筆者は当日サングラスを装着して走っていましたが、これも問題無く識別してくれました。

最後に「ドライバー異常時対応システム」も貴重な体験でした。これは万が一の急病の際にドライバーが下を向きっぱなしになった際、DMSが認識し警報を発します。しかしそれでも反応が無い場合、異常があったと判断、自動的に車速を落として同時にハザードランプとホーンを断続的に鳴らしながら停止します。

考えられているな、と感じたのはカーブの途中で停車すると後続車からの追突の可能性があることもあり、見通しの良い直線区間まで移動して停車させるという点です。

ついに本腰を入れたインフォテインメントシステム

スバル車はこれまでカーナビなどのインフォテインメント領域や通信を使ったテレマティクス領域についてはやや出遅れていました。しかし新型レヴォーグからは満を持してのシステムを搭載しています。

システムとしてはアイサイトXに12.3インチのフル液晶メーター、そして11.6インチの縦型ディスプレイ(ナビ機能含む)、そしてコネクテッドサービスである「STARLINK」をセットにしてメーカーオプションとして設定します。

11.6インチの大画面、項目はカスタマイズ可能。エアコンの温度調整はハードキーで行います

車両本体の価格はまだ出ていませんが、このシステムは35万円高(税別)で設定されるとのこと。内容を見るとアイサイトXだけでも驚くべき進化なのにナビなどを全て加えてこの価格に抑えたのは驚き、買いの装備であることは間違いないでしょう。

12.3インチのフル液晶メーターは標準的な2眼メーター表示の他、前述したアイサイトXの動作状態やカーナビ画面の表示など切り替えて使うことができます。

11.6インチの縦型ディスプレイは良く言われるタブレット的な使い勝手が可能です。カーナビ本体だけでなく、スマホ連携もしっかり行えます。音声認識機能も搭載しますが、良く使う機能のアイコンをスマホ的にカスタマイズできることなど時代に合った設定も搭載しています。

地図更新に関しても差分更新&全地図更新なども予定されており、PC経由で地図データを購入する予定ですが、金額などの詳細はこれからなので発売までのお楽しみということです。

この新インフォテインメントシステム、とてもこの記事内では紹介しきれない位の内容なのでこれに関しては発売開始後詳細にレポートしたいと考えていますが、全体のレスポンスも良好でコスパの高さも含め合格点が上げられるものです。

ステーションワゴン人気が再燃する

現在の世界の自動車マーケットではSUVが高い人気を誇っています。ステーションワゴンはSUV人気に押された格好になっていますが、最近ではトヨタのカローラツーリングや輸入車のプレミアムセグメントではステーションワゴンは一定以上の販売台数を維持しています。

何より高いユーティリティと立体駐車場への入庫制限もなく、さらにスポーティな走りも可能なステーションワゴンの人気が再燃しつつあると言えます。

日本のステーションワゴンをレガシィと共に牽引してきたレヴォーグの価格はまだ発表されていませんが、知れば知るほど輸入車では500万円以上するであろうその中身を予想では300万円台で実現したコストパフォーマンスの高さ、そしてアイサイトXが提案する先進安全装備の新未来は高く評価されるはずです。

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