プロが考える不動産投資の利点「他の投資に比べて“経営”に近い」

不動産投資のコンサルティングを行う株式会社アセットビルドの代表取締役であり、自身も投資のプロとして実績を積み上げてきた猪俣淳さん。前回までに聞いた「不動産のポートフォリオ」という考えは、その後の投資キャリアでさらに洗練されていったと言います。詳しく伺いました。


工事着工前、まだ土地造成中の物件を購入した理由とは

――前回、2軒目の投資物件を購入したところまで伺いました。この時におっしゃっていたのが、物件ごとの数字ではなく、全物件を合わせたトータルのポートフォリオで見ていくということでしたね。

そうですね。全体のポートフォリオを見ていく手法は、以降も変わりません。たとえばローンを借りて物件を購入した場合、最終的には売却という出口を取ることが多いですよね。私の場合、市場を見ながら「保有を継続した場合のキャシュフローと比較して」ある程度の手取りを取れると見れば、すぐに売却して次に買う物件の頭金にしていきました。そうやって、スピーディに物件を買うサイクルを回し、不動産投資のポートフォリオを作り込んでいったのです。

――さまざまな物件を揃えていったということでしょうか。

はい。たとえば2006年には、横浜市内の新築物件を5800万円で購入しました。といっても、まだ着工前、土地を造成している最中の購入でした。通常、工事着工前の物件は、完成済みのものに比べて売りづらいのがこの業界の常識です。建物がどんなものになるかイメージできないですし、全室空室の状態からスタートしないといけません。ただ、その分安く買えるメリットがあります。また、この物件は間取りや仕様を当初の計画から変更するなど、追加差額を負担することにより、自分の要望を反映させ物件をアレンジできたのも利点でした。

この物件を購入したのも、その時点で保有しているいくつかの物件に対し「これらの物件と組み合わせるためにこんな物件がほしい」とポートフォリオを作り込むためです。すべて保有物件との組み合わせを意識し、それに適した物件を購入していったのです。

購入する物件は、自分の全体ポートフォリオを見ながら決める

――ポートフォリオを作り込むと。

そうですね。たとえば不動産投資では、リスクとリターンを横軸・縦軸で表した、4つの投資分類が語られます。基本的に、リスクが低ければ低いほど想定できるリターンも低く、リスクを引き上げれば得られるリターンは高くなりますよね。そこで、低リスク低リターンの投資法を「コア型投資」と呼び、そこからリスク・リターンが高くなるにつれて「コアプラス型投資」「バリューアッド投資」「オポチュニスティック型投資」と呼ばれます。

――不動産投資の4類型と呼ばれるものですね。

どれを好むかは人それぞれで構わないのですが、ありがちなのは自分が良いと思う型ばかりの投資をしようとするケースです。それで狙い通りの分類にいけば良いですが、不動産投資は自分の予測からズレるケースもある。コアプラスを狙ったがコアになった、バリューアッド狙ったがオポチュニスティックになったなど。

――想定していたリスク・リターンからズレるということですよね。

そこで重要なのは、1個の分類だけ狙って物件を購入するのではなく、いろいろな投資分類を行う中で、最終的にポートフォリオ全体の数字が自分の好む分類に収斂することです。1軒1軒すべて狙い通りの分類に当てはめるのは難しいので、ポートフォリオを作りながら、全体トータルでのバランスが狙い通りの分類になることなんですね。

――なるほど。

大切なのは自分の投資ポートフォリオ全体を合わせた時、どの分類にいるかを知ること。その上で、もっとコア型に寄せたければそういった物件を増やす。これがポートフォリオを作り込んでいくことですね。

投資や金融も。31の資格を持つ中で感じる不動産投資の良さ

――ちなみに、猪俣さんは30以上の資格を持っていると伺いましたが、どんな資格なのですか?

不動産や建築、賃貸管理の資格はもちろんですが、投資や金融、保険の分野も持っています。何事も掘り下げたくなる性格なので、不動産投資をやる中で建築や投資、いろいろな分野を勉強したくなりました。それで資格が31種類にまで増えていったのです。

――その中でいろいろな投資や金融全般の知識も身につけたと思いますが、猪俣さんが考える不動産投資の良さとはなんですか。

事業に近いということですかね。経営者に似ているというか。有名な本「金持ち父さん貧乏父さん」の中に、すべての職業を4つに分ける話がありますよね。「E:従業員」「S:自営業者・専門家」「B:ビジネスオーナー」「I:投資家」という。不動産投資は、IとBの中間あたりではないかと思うんです。

――ビジネスオーナーと投資家の中間だと。

はい。他の投資に比べて、自分が関われる、自分の工夫で成果を上げられる要素が多いんです。たとえば先ほど話した着工前の物件も、すでに8室になるのは決まっていて、間取りも計画されていました。しかし、その計画では一部屋あたりの広さが周辺の競合物件より狭く、入居者募集に苦戦することが予想されたのです。そこでミリ単位で間取りを再検討し、バストイレ別にしたり、収納スペースを捻出したり、あるいはエントランス周りのバリューアップをしたりしました。

――そういった自分の工夫ができるわけですね。

そうですね。リフォームやリノベで物件のバリューアップをして賃料を上げる、運営方法を改善して稼働率を高める、募集方法を工夫して空室を解消する、融資を見直して返済負担を下げる。自分自身の経営努力で利益率を高められる可能性はいくらでもあります。こういった部分の余地が大きく、それを自分の判断でできるのは不動産投資の良さではないでしょうか。

――確かに、不動産投資ならではの良さかもしれません。

ただ、この辺りの采配や投資判断にもそれなりの知識が必要です。不動産投資を本格的にやられている方の中でも、それを系統だてて学んでいる方は意外と少ない。独自に手探りでやっているケースの方が多いかもしれません。

――そうなんですね。

加えて、不動産投資は結果が出るまでの期間が長い投資です。物件を複数所有し、10年以上経ってやっと本当の成果が明らかになってきます。最初のうちの結果(たとえばキャシュフロー)が良くても、保有期間中のメンテ関連の出費や売却出口での損益など投資期間全体のパフォーマンスを見ない事には、実際に成功していたのかどうかということがわかりません。「不動産投資で成功している」という方の中には、取組みして数年の成果をもってして成功と定義づけるケースも少なくなく、そのやり方をそのまま鵜呑みにしてしまうと、希望していたような成果とはかけ離れたものになってしまう恐れもあります。

だからこそ、その人がどれだけ長く不動産投資をしているのか、あるいは入口から出口まで一通りの経験を踏んでいるかという点も、ひとつの注目すべきポイントということになると思います。そうして信頼できる人から基本を学ぶのが大切だということを付け加えておきます。

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