【IR考】横浜誘致表明1年(1) コロナ禍でも誘致推進

新型コロナの集団感染が起きたクルーズ船からの下船客を乗せたバス。横浜市をはじめ関係機関が対応に追われた=2月14日、同市鶴見区の横浜港・大黒ふ頭

 横浜市の林文子市長がIR誘致を正式表明して1年がたった。今年に入って新型コロナウイルスの感染が拡大し、市も反対する市民団体も影響を受けた。それぞれの歩みを振り返るとともに、今後を展望する。(全4回)

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 「それ、本当?」

 横浜市港湾局幹部の声は、驚きと当惑に満ちていた。

 2月1日。香港政府は、横浜港から出港したクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で帰国した男性が、新型コロナウイルスに感染していたと発表。記者から電話で知らされた幹部は、思わずつぶやいた。「まずいことになったな…」

 約3700人の乗客乗員は、同港・大黒ふ頭沖に停泊した船内での待機を余儀なくされた。4日後の5日、検疫した厚生労働省が乗船者10人から陽性反応が出たと明らかにし、県内の関係機関はその日未明から、患者の受け入れの調整や救急搬送などの対応に追われた。

 未知のウイルスと行政や医療との、長く先の見えない闘いは、くしくも横浜から始まった。

 まん延した新型コロナウイルスは、人々の営みに制限を課し、暮らしに「感染防止」という緊張を強いて、これまでの価値観を根底から変えた。

 接触を避けること、外出を控えることを求められ、登校や通勤が当たり前でなくなり、パソコンの画面を通して会話することが増えた。ふるさとに帰省することもためらわれ、海外への渡航は規制された。人と人との間に距離が生まれ、地域と地域との、国と国との往来は減り、経済活動は停滞した。

 未曽有の事態に直面した政府や各自治体も、施策の見直しを迫られた。感染症対策が何よりも優先され、そのために人員と予算が割かれ、多くの事業が中止、延期、縮小された。

 横浜市は4月と6月、感染症対策費を盛り込んだ補正予算を矢継ぎ早に編成。計約6千億円を計上し、医療提供体制の整備や、市民生活や企業・事業活動の支援に充てた。

 だがその一方で、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)誘致を推進するとの姿勢を崩すことはなかった。

 

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